ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 ヒント:
……気になるな
まあ、そんなことより───────上野の体調は大丈夫なんだろうか。
さっきより表情は少し明るくなっているとは言え、俺やドッペルゲンガーが居たら落ち着いて休めないだろう。
「まあ、そういうワケだからさ。後は猫のこと任せたわ」
俺はそう佐々木に告げ、佐藤次郎(仮)の手を引っ張った。
「さ、行こうぜ兄貴。俺達は授業に戻んねぇと」
佐藤次郎(仮)は俺の言葉に納得がいかない様子だったが、しぶしぶと立ち上がる。
「えー!?つまんねー!もうちょっとここで遊んでこうぜ!?」
俺は首を振った。
「保健委員の俺から上野が保健室で休んでるってお爺ちゃん先生に報告しなきゃいけねぇんだよ」
名残惜しそうな佐藤次郎(仮)の手を引っ張り、やや強引に保健室を後にする。
「まあ、また近いうちに顔出すからよ。その時はよろしく頼むぜ」
俺がそう言い残すと佐々木は無言で手を振った。
佐々木の抱えてる案件ってのも気になるが──────まずはこのドッペルゲンガーの件を片付けるのが先だろう。
廊下に出ると佐藤次郎(仮)はポケットから何枚かの紙片を出して見せた。
「なあなあ!さっき上野からこれ貰ったんだけどよぉ!」
俺がチラリと見るとそれはアンパンマンのシールだった。
「俺に息子……いや、弟が居るって言ったらよぉ、なんか知らんけどくれたんだよな!!」
上野の弟は今年4歳になったとかでさ、もうアンパンマンを卒業しちまったんだとよ、と佐藤次郎(仮)はやや興奮気味に話す。
「でさぁ!俺らって急に向こうの世界からこっちに来たワケだろ?着替えとかないワケじゃねぇか。でも上野の弟が着なくなった服とかくれるって言ってくれたんだよなぁ!」
マジで助かるわぁー!と嬉しそうに話す佐藤次郎(仮)の姿を見ながら俺はガチで不安になってきた。
そうだよな。
コイツとその息子は────────着替えどころか何も持たずにある日突然、こっちに飛ばされて来たんだ。
一体何が原因でそんな不可思議な現象が起こったって言うんだろう?
普通に暮らしてる人間が急に世界線を移動して来てる訳じゃねぇか。
そんなこと頻繁にあってたまるかって思うんだけど──────
俺が考え込むような素振りを見せたからなのか、佐藤次郎(仮)は俺の顔を覗き込む。
「……何だァ!?弟ォ!?なんか心配してんのかよォ!?」
「いや、心配っつぅか──────なんで兄貴達がこっちの世界に飛ばされちまったんだろうとかって不思議に思ってさ……」
俺がそう答えると、佐藤次郎(仮)はポリポリと後頭部を掻きながらこう答えた。
「そういえば────────俺達が飛ばされた時はよォ、神社で飲み会してただけなんだけど……」
それって結構、重要な情報じゃねぇか?




