ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 保健委員とエスコートの仕事
確かに奇妙な組み合わせではあるんだが───────
なんで俺が、と渋る佐藤次郎(仮)の背中を押してやや強引に二人を保健室に送り出す。
「いいからいいから。ほら、俺って保健委員だからさ、怪我人や病人の付き添いで保健室に行くのも仕事のうちだし──────」
じゃあお前が行けばいいだろ、と言う佐藤次郎(仮)の言葉を遮って俺はこう答えた。
「迷子の子猫をまだ見つけてねぇからな。俺はちょっと向こうの部室練の方を見てから教室に戻るから」
それにほら、俺らニコイチみてぇなモンだろ?じゃあ兄貴も保健委員の仕事ってやるべきだろ、と俺はめちゃくちゃな理屈で押し通そうと試みる。
「……そういうモンなのかァ?」
佐藤次郎(仮)は納得したようなしてないような顔で首を傾げている。
上野は黙ったまま少し躊躇するような表情を浮かべていた。
「次の授業って国語だっけ?お爺ちゃん先生にはちゃんと俺から言っとくからさ」
ちょっと横になって休んどけよ、と念押しするように言うと上野は小さく頷いた。
「まあ、そこまで佐藤っちが言うんなら……久しぶりに佐々木っちのトコで駄弁ってサボるのもいいかもね」
やっぱり何か変だ。
いつもの上野らしくないじゃねぇか。
普段の上野ならこんなリアクションはしないんじゃないか?そんな気がした。
「……じゃ、早く行こ?佐藤っち兄貴?」
「てか、佐藤っち兄貴って変な呼び方だなァ?まあいいけどよぉ──────」
納得したんだかしてないんだか。二人はそのまま保健室に向かって歩き始めた。
二人の後ろ姿を見送りながら俺はさっきの違和感について考えていた。
まあ、上野が具合悪そうって言うんならさ、俺が保健室に送って行っても良さそうなもんなんだけど────────
どうしてだかさっきは“俺が深入りしちゃいけない”って気がしたんだよな。
(だからってあのドッペルゲンガーに送らせるってのも正解だとは思えないんだけども)
保健室には佐々木が居るし、俺に言えないことでも佐々木になら話せるだろ。
とりあえず俺の方は部室練の方をグルっと回って何かの形跡が残ってないかだけ見てから戻ろう。
ただでさえドッペルゲンガーの事で頭が一杯なんだし、早いとこ子猫が見つかればそれに越した事はないが─────長期戦、或いは子猫が見つからずじまいって線も考えられる。
どう佐々木に報告し、どうやってあの佐藤次郎(仮)を預かって貰うか……そんなことを考えながら歩いていると、視界に一年の女子が飛び込んできた。
背の低い小柄な一年生女子。
部室練裏の桜の木の下で途方に暮れたような様子で立ちすくんでいる。
普段はこの時間帯、ここに誰か居るって事はほぼ無いんだが───────
掃除の時間の終わりを告げるチャイムはとっくに鳴っていた。
「お前さ、何してんの?もう授業始まってんだろ?」
俺が声を掛けると一年生はビクリとした様子でこちらを凝視してくる。
「……え!?あ、はい!?」
俺みたいな2年のヤンキーに声を掛けられたのが怖かったのか、怯えるような表情を浮かべていた。
『宮原』と書かれた名札が胸に付いている。
真面目で大人しそうな、セミロングの黒髪の女子だ。
授業をサボるような人物には見えなかった。
「何かあったのか?」
俺がそう訊ねると───────宮原という女子はおずおずと木の上を指さして泣きそうな声で答えた。
「その……木の上から……ネコチャンが降りられなくなってるみたいなんです……」
は!?猫!?




