ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 保健室探偵は常に多忙
ハァ?
「猫?」
思わず俺は聞き返した。
「そう。猫よ。」
猫って……学校でか?
交換条件として佐々木から依頼された内容。
それは学校の敷地内で迷子になっていると思われる子猫を保護するというものだった。
「なんで猫?」
意味が分からないので俺はもう一度聞き返す。
「……まあ、話せば長いのだけれど────────」
佐々木が語った内容というのはこうだ。
テニス部に所属する三年女子が自宅から子猫をコッソリと学校に連れ込んだのはいいものの、部室のロッカーに置いておいた籠からいつの間にか脱走していたらしい。
「そこのお家で飼っていた子猫で─────普段は在宅勤務のお母さんが世話をしているってことだったんだけど」
今日だけ出社するって事態になって、自宅に置いておくのも心配でついバスケットに入れて学校に連れて来てしまったらしいのよね、と佐々木は溜息をついた。
なるほどな、と俺は相槌を打つ。
「俺も猫、飼ってるからよ。心配って気持ちもよくわかるんだけどさ」
なんでお前が猫探しを引き受けてんの?と俺が聞くと佐々木は小さく笑った。
「……もう薄々わかってるでしょう?こちらにもメリットは色々とあるのよ」
三年女子の中でもカースト上位のテニス部女子から依頼された案件を引き受けるというのは、佐々木の情報網がより強化されるって事なんだろうか?
それとも恩を売っといて損はない?
「……まあ、今回のこれは本命のヤマとは無関係だけど───────校・内・で・の・人・脈・は強化しといて損はない訳でしょう?」
「……ヤマってなんだよ?ドラマに出てくる刑事か探偵みたいだな」
俺がそう言うと佐々木は溜息をついた。
「……そんなカッコいいもんじゃないわよ。なんだって常に地味な作業の繰り返しよ」
ふうん、と俺が返事すると佐々木は何かを俺に手渡して来た。
「……はい。子猫用のエサよ。無理のない範囲でうまく活用してね」
俺は『ちゃおちゅ〜る 子ねこ用』と記載されているパッケージを受け取った。
「いや、子猫が学校で迷子になってるっつぅんなら交換条件もクソもねぇだろ、全力で探すわ」
俺だって花園リセに手伝って貰ってるとはいえ、一応猫を飼ってる訳だしさ。
生まれて間もないチビがだだっ広い校内で迷子になってピーピー鳴いてるって聞いたらほっとけねぇじゃねぇか。
けどさ、と俺は続けた。
「もしも俺が見つけらんなかったりとか……他の奴が先に見つけてたらどうすんだ?」
交換としての条件は不成立ってことか、と俺が聞くと佐々木は首を振った。
「……さっきも言ったように──────この案件は本命のヤマじゃないの。だから、“できる範囲で”協力してくれさえすればそれでいいわ」
佐々木が抱えてる案件にはもっとデカいものがある。それってどんだけヤバいもんなんだろう。
保健室でヒマしてんのかと思ったら結構忙しいんだな。




