ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 新ジャンル「双子ヤンキー」
マジで冗談みたいだよな
「えー。かなり突然だが転校生を紹介する」
朝のHR。
数日間出張だという加賀に代わり、教壇に立っていたのは副担任の小泉だった。
教室内は騒然としている。
まあ、そうだよな。同じ顔、同じ背格好で同じ佐藤姓の奴がもう一人居るんだからさ。
「既に気付いていると思うが───────ウチのクラスの佐藤の従兄弟で……」
小泉が黒板に『佐藤次郎』という名前を書くと教室内は更にザワザワとする。
まあ、次郎だなんて意味不明で不自然な名前なのも逆に目立つよな。
しかし、よりによってウチのクラスでなくてもいいかとは思ったんだが──────なんせ見張ってないと何をしでかすかわからん奴だからさ。
俺と小泉とで監視するには丁度いいのかもしれねぇが、いざ教室に連れて来たらなかなか厳しいものがある。
「今日から世話になる佐藤……次郎だ。まあ、夜露死苦頼むぜ!」
佐藤次郎(仮)は黒板の前で威勢よく挨拶する。
「従兄弟!?っていうか双子じゃなくて!?」
真っ先に声を上げたのはクラスの白ギャル、上野だった。
「ホントは一卵性双生児とかっしょ?」
まあ、そうだよな。従兄弟って設定に無理があるって一目でわかるレベルでの激似な見た目だもんな。
「佐藤……次郎君は家庭の都合で短い間だがこちらに越して来たんだ。み……皆も仲良くしてやってくれ」
どうフォローすべきか迷った末にぶん投げたかのような──────転校生のテンプレ紹介文を適当に口にした小泉はそれきり黙ってしまった。
やはり、小泉に全部背負わせるのは酷だろう。
「……この前歩いてたのはあなただったのね」
水森唯は驚いたように目を見開いている。
「次郎(仮)は俺の従兄弟ではあるんだけどさ─────兄弟同然に育ってるから!俺の兄弟分だと思って面倒見てやってくれよな!!」
俺はややヤケクソ気味なテンションでその場を取り繕うように言った。
昨日は俺に対する“濡れ衣”を晴らす為に──────校長と加賀の前にコイツを連れてった訳なんだが……
その時もまあ同じような空気になったんだよな。
俺のことを100%疑ってた加賀なんか目を白黒させながらキーキー喚いてたし。
その上、自分とこのクラスに入れられるって校長から聞かされて卒倒しそうな勢いだったな。
加賀が急遽出張ってのも、もしかしたらなんか関係あるのかもな。
まあ、タダでさえトラブルメーカーだった俺が分裂したようなモンだし────────
加賀が逃走したくなるのも仕方が無いだろう。
俺の隣の席になった佐藤次郎(仮)はニヤニヤとしながらこっちを見てくる。
「なあ、“兄弟同然”に育ったって事はよォ、どっちかが”兄“って設定だろ?」
どっちが“兄”に相応しいって思ってんだ?と聞いてくる佐藤次郎(仮)の意図と思惑は何となくわかった。
「……ああ、お前がにーちゃんでいいよ。子持ちだしな」
「……っしゃ!!俺のが偉いって理解ってんじゃん!?」
俺の返事を聞いた佐藤次郎(仮)は大きくガッツポーズを決める。
なんかコイツ、ホントに俺のドッペルゲンガーなんだろうか。
薄々思ってたが、ちょっと脳味噌が単細胞過ぎやしね?
「こら!!HRはまだ終わってないぞ!?静かにしないか!!」
小泉がキレる声が教室内に響く。
─────────こんな調子で無事に学校生活を乗り切れるんだろうか。
俺は隣の佐藤次郎(仮)に気付かれないように小さく溜息をついた。
先が思いやられるな……




