ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 Please record your name!
俺が言うのもなんだけど──────やっぱコイツ、どっかおかしいわ。
「ハァ!?なんだよこのふざけた名前はよォ!?」
佑ニーサンが用意してくれた書類を見たドッペルゲンガーはキレ散らかしている。
俺は黙ったままコイツの学ランの背中の刺繍の文字を眺めた。
しかし、『喧嘩上等 俺参上!』ってキャッチフレーズはあんまりじゃねぇか。
本当にコイツが俺のドッペルゲンガーなんだろうか。
趣味が悪いにも程がある。
てか、特注なんだろうか。今どきドコでこんなオーダーを受け付けてるっていうんだろう。
こんな奴が“もう一人の俺”だとはあまり考えたくはないな、と思いながら俺は朝食を食べ終わった。
「しょーがねぇだろ。佑ニーサンのセンスなんだし」
なんとかねじ込んで貰えただけでも有り難く思わねぇと、と俺が言うとドッペルゲンガーはギロリとこちらを睨んだ。
佐藤次郎。
それがドッペルゲンガーに与えられたこの世界での“仮名”だった。
「ガッコー行くにしてもさ、保育園にガキを預けるにしても無戸籍ってワケには行かんだろうが」
佑ニーサンの持っている謎の人脈と力によって───────どういうカラクリかは不明だが───────こうして学校と保育園に転入する書類が用意されたのだが。
佑ニーサンの人脈ってどうなってんだろう?下手したらパスポートや免許証まで用意しかねない勢いでガチで怖くなってくる。
「だからってなんで“佐藤次郎“!?他にもっとなんかあっただろうが!?」
ドッペルゲンガー改め”佐藤次郎“(仮名)は臨時で与えられたこの名前が大いに不服なようで──────朝から大荒れだった訳なんだよな。全く迷惑なハナシだ。
「めんどくさい奴だな。こっちの世界じゃ俺がメインなんだからよ、お前が”次郎“でもしょうがねぇだろ」
元の世界に戻れるまで辛抱しろよ、と俺が言うと佐藤次郎(仮)はピタリと動きを止めた。
「……なぁ。俺達って──────ホントに元の世界に戻れんのかよ?」
やや不安そうな表情を浮かべながら佐藤次郎(仮)はボソリと呟く。
ああ、と俺は頷いた。
「とりあえずセンセェがいろんな文献漁って調べてるみたいだし──────どうにかなるんじゃねぇの?」
俺がそう言うと佐藤次郎(仮)はますます不安そうな表情を浮かべた。
「鏡花か。アイツってそんなチカラあったのか?」
「──────そうは言っても今んトコ他に頼れる人材が居ねぇしなあ」
とりあえず、子どもを保育園に預けて学校に通いつつ元の世界に帰れる方法を模索する。
従兄弟という設定とはいえ、同じ顔・同じ姿の人間が同じ学校に通うってのはトラブルが起こる予感しかしないが─────────────
コイツと並んで歩くの恥ずかしい。




