ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 君の名は
なんか気味が悪いな。
俺と小泉は保健室を後にすると職員室に急いだ。
何かがおかしい。
早く確かめないといけない────────そんな気がしたんだ。
しかし。
俺と小泉の目の前にまたしても意外な人物が現れた。
「……佐藤君」
声を掛けてきたのは──────あの水森唯だった。
時間を戻った後、生活状況が良くなったのか少し明るい笑顔を見せるようになってはいたが……俺との接点は皆無だった。
「水森……!?」
咄嗟に俺も身構える。
また良くない知らせだろうか。
今度はどんな事を言われるんだ?
俺と小泉は緊張を帯びた面持ちで水森の次の言葉を待った。
「……これ」
水森が差し出して来た物は──────折り畳んだタオルハンカチだった。
「ん?」
水森の意図が掴めず、俺は困惑する。
「……佐藤君、さっき落としたでしょう?」
水森は俺の手にタオルハンカチを渡してくる。
「俺が?」
暖色系の賑やかなカラーリングのタオルハンカチには全く見覚えが無い。
落とした覚えはないが────────
俺は水森からタオルハンカチを受け取り、それを凝視する。
「ん?これってドキンちゃんじゃないのか?」
横で見ていた小泉が口を挟む。
ドキンちゃん?
怪訝に思いながら開いてみるとそれは─────────『アンパンマンのキャライラスト入りタオルハンカチ』だった。
「は!?」
断言するが、これは俺の趣味ではない。
たまに御月から貰った『すみっコぐらし』のタオルハンカチを使ってることはあるが、流石にアンパンマンはナシだろう。
「人違いじゃねぇの?俺、こんなん使わんし……」
そう言いながら水森にそれを返そうとした時だった。
「おい、付けてあるネームタグの名前をよく見ろ!」
小泉の言葉で俺は再びタオルハンカチを凝視する。
それにはネームタグが縫い付けられ、『さとう』と黒マジックで記名がされていた。
「いや、確かに“さとう”とは書いてあるみたいだけど──────」
歳の離れた兄弟の居る奴が落としたんじゃないのか、と俺は水森に言った。
この学校にも何人か“佐藤”姓のヤツは居るからな。まあ、ありふれた苗字だし。
「……ううん。さっき、佐藤君が落として行ったでしょう?」
だから間違いは無いと思う、と水森は普通に答えた。
「俺が?」
水森唯は嘘をつくような女子ではないし─────嘘をつく理由も何もないように思えた。
『さとう』の名前入りのアンパンマンのタオルハンカチ。
なんとも奇妙だが────────一体何がどうなっているんだ?
なんでアンパンマン?




