ep7『ドッペルゲンガーと14歳の父』 喧嘩上等
何が起こってるんだか……
訳がわからないまま、俺と小泉は職員室に急ぐ。
[何かが起こっている]という事しかわからないが────────放置していい状況ではないことだけは理解できた。
「裸学ランとはまた……随分とエキセントリックだな」
小泉がポツリと呟く。
全く身に覚えがないんだが。
エイプリルフールにしちゃ時期外れ過ぎやしないか?
そう考えながら歩いていると────────保健室の前のドアに差し掛かった瞬間、俺は物凄い勢いで腕を引っ張られた。
「!?」
振り返るとそこに立っていたのは佐々木だった。
「……ちょっと……いいかしら?」
保健室のドアの隙間から手招きする佐々木の様子がいつもと違うことはすぐに察せられた。
俺と小泉は顔を見合わせ、保健室の中に足を踏み入れた。
「急にどうしたんだよ佐々木?」
そう訊ねる俺に対し、佐々木は眉間に皺を寄せながら答えた。
「……それはこっちのセリフだわ」
佐々木は養護教諭用の椅子に座り、指先でトントンと机の上を叩いた。
「貴方……三年男子のカースト上位グループに喧嘩を売ったそうね?」
どうしてそんなことをしたのかしら、という佐々木の問いかけに対し、俺は絶句する事しか出来なかった。
「ハア!?」
おい、本当なのか佐藤、と小泉が小声で俺に訊いてくる。
「ちょっと待ってくれよ二人共」
俺は混乱しながらもなんとか状況を飲み込もうと努力する。
「さっきからおかしな事ばっかりじゃねぇか。俺はそんなことしねぇし、第一────────」
俺になんのメリットも無くね?と俺は二人に訴える。
「ほら、俺が生活の為に隠れてバイトしてんのって二人共知ってるだろ?働かなきゃ食ってけねぇ訳だし……」
その為には校内でなるべく不必要なトラブルを起こさないようにしなきゃって思っててさ、だから意味もなく誰かに喧嘩売るとか絶対やんねぇし、と言う俺の言葉に佐々木と小泉は頷いた。
「……それもそうね」
「確かに、金にならん喧嘩してる状況じゃないしな」
「三年のカースト上位グループとかも俺がバイトしてんの薄々知ってるだろ?分かってて敢えて触れて来ないっつぅか」
確かにね、と佐々木も相槌を打った。
「そもそも喧嘩する必要が俺には無ぇだろ?絶対に俺が勝つんだしさ」
……それはまあ、と小泉も頷く。
「三年カースト上位男子っつってもさ、親の金で食わせて貰ってるだけのイキリ陰キャ雑魚共だろ?一人で生きる為にバイトガチってる俺とは生きてる世界がそもそも違うっつーか」
「そうね。前回の騒動のように貴方側にも何らかの『理由』がある状況ならともかく─────自分より弱い相手に喧嘩を仕掛けるメリットは確かに無いわね」
前回の騒動を知っている佐々木は意味ありげに頷く。ってか、前回の例のアレ、コイツに録画されてたっけ?
「佐々木。どういう状況でコイツが三年男子とトラブルになったのか……詳しく聞かせてくれないか?」
小泉がそう佐々木に訊ねる。
「ええ、私も又聞きだからさほど詳しくは把握していないんですが──────なんでも、すれ違いざまに肩がぶつかったとかで喧嘩に発展したとか」
「は!?そんだけの理由で喧嘩してんの?!」
肩がぶつかるたびにバトル勃発させてたんじゃ、身体がいくらあっても足りんだろう。
ともかく────────俺の知らない所で不可解な何かが動いている。それは確実なことに思えた。
いくらなんでも血の気が多すぎじゃねぇか




