ep6『さよなら小泉先生』 帰還の挨拶
嘘だろ?
「小泉……!?」
頭上で聞き覚えのある声と蓋が開く音が響く。
「は!?まさか本当にこんな所に───!?馬鹿なのか!?」
うっすらと目を開けると、視界に巫女姿の小泉とシンジの姿が飛び込んで来る。
てか、馬鹿呼ばわりって随分とご挨拶じゃねぇかシンジのヤツ。
それよりマジでもう体力無くて落っこちそうなんだが。
「捕まれ!」
俺の状況を察した小泉が俺に向かって手を伸ばす。
「センセェ──────」
俺も必死で手を伸ばした。
「もうちょっとだ!あともうちょっとで届く!」
小泉の手を掴もうとした俺の掌は何度も宙を掴むように空振りした。
小泉が身体を乗り出す。
しかし、俺の身体は服が水を吸って重さが増していた。
壁に手足を押し付け、必死で自重を支えようとするものの───────つま先の力が抜けていく。
「───────佐藤!!」
小泉が叫び、俺の手を掴んだ。
小泉の体温が俺の冷え切った身体に伝わってくる。
「センセェ……!」
安堵したのも束の間───────その瞬間だった。
『!?』
バランスを崩した小泉の身体が俺の方に目掛けて降って来た。
「は!?」
こうして俺と小泉は─────────井戸の底に向かって真っ逆さまに落ちていった。
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目を覚ました俺は──────自分が布団に寝かされていることに気付いた。
どこだここは?
見覚えがあるようなないような天井。
畳の部屋だった。
まだ夢を見ているのか?
俺は周囲を見渡した。
真横を見ると、隣にも布団が敷いてある。
そこに横になっていたのは小泉だった。
小泉は放心状態のまま、天井を見上げている。
恐らくここは社務所の一部屋だろう。
「‥‥センセェ!?」
俺が声を掛けると、小泉は首を動かしこちらを見た。
「気がついたのか、佐藤」
ただ一言だけそう言うと、小泉はそれきり黙った。
それはいつもの小泉らしくないリアクションのようにも思えた。
怒っているという訳でも無さそうだが、もしかして何処か怪我でもしたんだろうか。
心配になった俺は、布団から飛び起きた。
ふと自分の格好を見ると、制服では無く真っ白な着物を着せられていた。
誰かが手当てして着替えさせてくれたんだろう。
「センセェ、怪我とかしたのか!?大丈夫か!?」
俺は小泉の顔を見ながら尋ねた。
いや、別に、と小泉は小さくそれだけを答えた。
「そんな事ねぇだろ!?ホントに大丈夫なのかよ!?」
俺は小泉の顔を覗き込んだ。
「……!!」
布団に仰向けに寝たままの小泉は驚いたように目を見開く。
複雑な感情の籠ったような視線が俺を見つめる。
その瞬間────────俺は何かを思い出したような気がした。
ドクンと心臓が跳ねる。
俺は小泉に……キチンと言わなきゃいけねぇ事があるんだ。
胸の奥が熱を帯びたように痛い。
超至近距離に顔が近付く。
俺は小泉の目を見ながらこう切り出した。
「なあ、センセェ─────俺……」
今度こそ後悔したくないんだ。




