ep6『さよなら小泉先生』 長いお別れ
めっちゃ恥ずかしい。
「……っ!」
俺と小泉(13)は───────お互いにやや気まずい雰囲気で見つめ合っていた。
「てか!!!お前さ!!なんで途中で邪魔してくんだよ!?」
意味わかんねぇし、と俺がやや強めに言うと小泉(13)も負けずに言い返してくる。
「だって私ばっかり全部忘れるの不公平じゃん!佐藤君もちょっとは忘れてよ!」
なんでそうなるんだよ。
「そうはいかねぇだろうが!?馬鹿かよ!?まさかこんな事してくるとは思わねぇから─────俺の身体の中に結構入っちまったじゃねぇか!?」
俺さ、水飴状になった波打飴をそこそこの量飲んじまった感じがするんだよな。
「それでいいじゃない。半分ずつでしょ?」
コイツは俺の説明した意図を理解してなかったのか?
「お前が忘れねぇと意味ねぇんだよ!ちゃんとした未来に行けなきゃ俺ら、出会えねぇんだぜ?!」
こんなトコで舌とか入れてくんの反則じゃん、と俺が小さく呟くと小泉(13)は少し笑った。
「佐藤君のエッチ!ちょっとやらしい気分になってたでしょ?」
ぶっちゃけるとまあ、そうなんだけどさ。
だって仕方がねぇだろ。不可抗力だし。
「……じゃあお前はどうなんだよ?」
苦し紛れに俺がそう言うと小泉はあっけらかんとこう言い放った。
「そうかもね……すっごくドキドキしたし──────」
ずっとこうしてられたらいいのにって思った、と呟く小泉(13)の言葉に俺の胸がズキリと痛んだ。
「そんなの俺も同じだし……」
「セックスとかするより、こっちの方が身体が溶けそうって思った」
それも……俺も同じ気持ちだった。
心が一つに重なってたから─────身体も気持ちよかったんだろうか。
本当は──────俺たちは身体を重ねるより前に、もっとお互いを知ろうとするべきだったんじゃないのか?
何かもっと別の────わかり合う方法があったのかもしれない。
俺の感情を見透かすように小泉(13)はこう言った。
「私たち、もっと早く出会ってもっと色んな事……一緒にしたかったね」
次に会ったらさ、今度こそちゃんとデートに連れてってよね、と言う小泉(13)のその言葉に俺はなんだか泣きそうになった。
別れの時が近付いて来ている。
「絶対にまた会えるだろ?」
お前が巫女の仕事や趣味、将来の夢に向かって全力で前を向いて進んでくれたら……そこに俺は居るから、と俺は言ったつもりだった。
声が掠れて上手く出ない。
「私、絶対に佐藤君のこと、忘れないよ─────佐藤君が私の記憶から消えても、その体温も感触も身体が覚えてるから……」
佐藤君のこと、何があっても必ず見つけ出すから、と言いながら小泉(13)は小指を俺に差し出して来た。
「ね、指切りしよ?絶対にまた会うって……」
ああ、と俺は頷き、透明になった小指を出した。
「ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら針千本飲ーますー!」
小泉(13)は力を入れてブンブンと小指を上下させる。
半ば破れかぶれのような────それでいて何かの決意を感じさせるような。
『指切った!』
俺と小泉(13)の指は勢いよく離れる。
「……絶対だからね」
小泉(13)は泣きそうな顔で俺を見ている。
俺の身体がだんだんと軽くなっていくのを自分でも感じていた。
「……佐藤君の身体、すごく透明になってる─────」
小泉(13)が無理矢理に笑顔を作ろうとしているのがわかる。
心臓が鷲掴みにされたように痛んだ。
「俺の身体が透明になってるってさ、そっちからはどんな風にみえてんの?」
俺も笑顔を作りながら─────極力、いつものように振る舞った。
「佐藤君の身体越しに彼岸花が咲いてるのが見えるよ───────赤いのと白いのと」
小泉(13)の目からは堪えきれずに大粒の涙が溢れていた。
「……ねえ、佐藤君。白い彼岸花の花言葉って知ってる?」
小泉(13)の言葉の後、ザッと突風が吹いて俺の視界は黒くなりかけた。
真っ黒な空間に赤と白の彼岸花がはらはらと舞い落ちる。
「へえ?白にも別の花言葉とかあんの?」
俺がそう答えた次の瞬間、急激な耳鳴りに襲われる。
強い風が俺の身体を覆い、周囲の音が聞こえなくなる。
「・・ ・-・・ --- ・・・- ・ -・-- --- ・・- 」
唇を動かす小泉(13)の姿を眺めながら俺は────────ゆっくりと意識が飛ぶのを感じていた。
これで良かったんだろうか……?




