表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

530/1123

ep6『さよなら小泉先生』 長いお別れ

めっちゃ恥ずかしい。

「……っ!」


俺と小泉(13)は───────お互いにやや気まずい雰囲気で見つめ合っていた。


「てか!!!お前さ!!なんで途中で邪魔してくんだよ!?」


意味わかんねぇし、と俺がやや強めに言うと小泉(13)も負けずに言い返してくる。


「だって私ばっかり全部忘れるの不公平じゃん!佐藤君もちょっとは忘れてよ!」


なんでそうなるんだよ。


「そうはいかねぇだろうが!?馬鹿かよ!?まさかこんな事してくるとは思わねぇから─────俺の身体の中に結構入っちまったじゃねぇか!?」


俺さ、水飴状になった波打飴(なみだあめ)をそこそこの量飲んじまった感じがするんだよな。


「それでいいじゃない。半分ずつでしょ?」


コイツは俺の説明した意図を理解してなかったのか?


「お前が忘れねぇと意味ねぇんだよ!ちゃんとした未来に行けなきゃ俺ら、出会えねぇんだぜ?!」


こんなトコで舌とか入れてくんの反則じゃん、と俺が小さく呟くと小泉(13)は少し笑った。


「佐藤君のエッチ!ちょっとやらしい気分になってたでしょ?」


ぶっちゃけるとまあ、そうなんだけどさ。


だって仕方がねぇだろ。不可抗力だし。


「……じゃあお前はどうなんだよ?」


苦し紛れに俺がそう言うと小泉はあっけらかんとこう言い放った。


「そうかもね……すっごくドキドキしたし──────」


ずっとこうしてられたらいいのにって思った、と呟く小泉(13)の言葉に俺の胸がズキリと痛んだ。


「そんなの俺も同じだし……」


「セックスとかするより、こっちの方が身体が溶けそうって思った」


それも……俺も同じ気持ちだった。


心が一つに重なってたから─────身体も気持ちよかったんだろうか。


本当は──────俺たちは身体を重ねるより前に、もっとお互いを知ろうとするべきだったんじゃないのか?


何かもっと別の────わかり合う方法があったのかもしれない。


俺の感情を見透かすように小泉(13)はこう言った。


「私たち、もっと早く出会ってもっと色んな事……一緒にしたかったね」


次に会ったらさ、今度こそちゃんとデートに連れてってよね、と言う小泉(13)のその言葉に俺はなんだか泣きそうになった。


別れの時が近付いて来ている。


「絶対にまた会えるだろ?」


お前が巫女の仕事や趣味、将来の夢に向かって全力で前を向いて進んでくれたら……そこに俺は居るから、と俺は言ったつもりだった。


声が掠れて上手く出ない。


「私、絶対に佐藤君のこと、忘れないよ─────佐藤君が私の記憶から消えても、その体温も感触も身体が覚えてるから……」


佐藤君のこと、何があっても必ず見つけ出すから、と言いながら小泉(13)は小指を俺に差し出して来た。


「ね、指切りしよ?絶対にまた会うって……」


ああ、と俺は頷き、透明になった小指を出した。


「ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら針千本飲ーますー!」


小泉(13)は力を入れてブンブンと小指を上下させる。


半ば破れかぶれのような────それでいて何かの決意を感じさせるような。


『指切った!』


俺と小泉(13)の指は勢いよく離れる。


「……絶対だからね」


小泉(13)は泣きそうな顔で俺を見ている。


俺の身体がだんだんと軽くなっていくのを自分でも感じていた。


「……佐藤君の身体、すごく透明になってる─────」


小泉(13)が無理矢理に笑顔を作ろうとしているのがわかる。


心臓が鷲掴みにされたように痛んだ。


「俺の身体が透明になってるってさ、そっちからはどんな風にみえてんの?」


俺も笑顔を作りながら─────極力、いつものように振る舞った。


「佐藤君の身体越しに彼岸花が咲いてるのが見えるよ───────赤いのと白いのと」


小泉(13)の目からは堪えきれずに大粒の涙が溢れていた。


「……ねえ、佐藤君。白い彼岸花の花言葉って知ってる?」


小泉(13)の言葉の後、ザッと突風が吹いて俺の視界は黒くなりかけた。


真っ黒な空間に赤と白の彼岸花がはらはらと舞い落ちる。


「へえ?白にも別の花言葉とかあんの?」


俺がそう答えた次の瞬間、急激な耳鳴りに襲われる。


強い風が俺の身体を覆い、周囲の音が聞こえなくなる。


「・・ ・-・・ --- ・・・- ・ -・-- --- ・・- 」









唇を動かす小泉(13)の姿を眺めながら俺は────────ゆっくりと意識が飛ぶのを感じていた。

これで良かったんだろうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ