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ep0. 「真夏の夜の爪」 53.滅多刺しのメソッド

頭に話がゼンゼン入って来ねぇ。

あの、おれがこんなこと言うの生意気かもしれないんでスけど、と概史が恐る恐る小声で言った。


「何だよ、言ってみろよ」


少年は扇風機の羽根の回転をひたすら眺めていた。


夏休みの宿題、一切手を付けてねぇなあとぼんやり考える。


「こういうのって初回は絶対向こうは痛いと思うんスよね。血は出るし。怖いし。要は裂ける訳でしょ?何なら初回以降も気持ちは良くない。エロ同人誌みたいにはいかないっていうか」


ふーん。あっちはメリット無ぇんだなあ、と少年は小さく呟いた。


「何のためにこんなことするンだろうなぁ」


ちょっと待ってくださいよ先輩!?と概史がすかさず声を上げる。


「もしかしてテンションめっちゃ下がってませんか?」


少年は何も答えなかった。


テンションが下がるどころの騒ぎでは無い。


昨日佑ニーサンに相談に行って完膚なきまでに叩き潰されたのだ。


少年は何が正しくて何が間違っているのか分からなくなっていた。


「昨日佑ニーサンに絶対辞めとけみたいに釘刺されたンだけど。っつーか、釘刺されたどころか滅多刺しのオーバーキルだったンだけど」


まああの、と概史は言葉を濁した。


「でもおれを寄越したっていうのはある意味飴と鞭ってことじゃないスか?」


「飴と鞭?」


少年は言葉を繰り返した。


「ほら、よく子育てアドバイスみたいなメソッドあるじゃ無いスか。父親が厳しく叱る役回りでその後のフォロー役に母親が、みたいなの」


「は?佑ニーサンが父親役でお前が母親役って事か?」


少年が思わず聞き返す。


「おれが言うのも何だけど、佑ニーサン的に昨日言い過ぎたみたいな思いがあったからおれを寄越したんじゃ無いッスかね?」


じゃあ何かよ、佑ニーサン的には後押しもしてるって事なンかよ?、と少年は不審げに概史を見る。


「佑ニーサンも保護者ポジションの立場としては大っぴらに後押し出来ないんじゃ無いスか?けど、本心は違うって言うか」


けど、と概史は続けた。


「これも最後の親心って事じゃ無いスかね」


は?何だよ最後って、と少年は聞き返した。


「あれ?これ聞いてないんスか?佑ニーサン達、この町から出て行くんスよ」


え?と思わず少年が動きを止める。


「引っ越すって」


「赤ちゃんが産まれるんっスよね?今住んでる物件は子ども不可だから引っ越すって……先輩、聞いてなかったんスか?」


不意に少年は恐ろしい感情に襲われた。


佑ニーサンが居なくなる?


母親不在の少年に代わって保護者として何かと世話を焼いてくれたのが佑ニーサンだった。


その佑ニーサンが居なくなる。


少年はこの綱渡り生活の後ろ盾を失うのだ。


暗闇に一人置いていかれる感覚。


母親に続いて佑ニーサンまでもが少年を捨てるのだ。





不意打ちで金属バットをフルスイングされたような気分だった。


大人はよくわからない。

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