ep6『さよなら小泉先生』 恋をするにはまだ若すぎる
この手の約束が守られたハナシってあんま聞かねぇんだよな。
「絶対に……絶対だよ?!」
小泉(13)は涙目で俺を見上げる。
ああ、と俺は頷き、波打飴を小泉(13)の手のひらの上に載せた。
「じゃあ、これ……」
しかし。
やだ!と小泉(13)は頬を膨らませてそっぽを向いた。
「え?」
戸惑う俺を尻目に、小泉(13)はこう続けた。
「佐藤君が口移しで食べさせてくれるなら……いいよ?」
「ええ……」
予想外の小泉(13)の無茶振りに俺は困惑を隠せなかった。
俺の指の先は完全に透けている。
時間もそれほど残ってない。
まあ、口移しくらい可愛いもんだよな……
そう思った俺は腹を括った。
そもそも3回もあんなことしといてさ、今更って感じだよな。
「わかったよ……しょうがねぇなあ……」
俺がそう言うと小泉(13)は少し笑った。
「へへ……」
俺は小泉の身体をもう一度引き寄せ肩を抱いた。
「じゃ、目ェ瞑って……」
俺は震える手で飴を包む透明なセロハンを開け、ビー玉のようにキラキラ光るものを口に放り込んだ。
「!?」
その瞬間、俺はパニックになった。
硬い飴玉だと思っていたのに────────口に入れた瞬間、それは一瞬でほどけるように溶けてしまった。
(えええ!??)
硬い飴玉は一瞬で甘い水飴のようにとろけ、俺の口の中に広がっていく。
……っていうか、俺の方が記憶失ってどうすんだよ!?
俺は慌てて小泉(13)の唇に自分の唇を重ねた。
だけど─────これって、こっからどうすんだよ!?
水飴のようになった波打飴は体温でさらにとろけて蜜のようだ。
俺はどうにかしてこれを小泉(13)に流し込もうと必死になっていた。
こういうのってディープキスって言うんだよな─────?
心臓がドクドクと音を立てているのが自分でもわかる。
コイツとさんざんあんなことしといてさ、マジで今更なんだけど──────
俺、キスの時にどうやって舌入れんのかわかんねぇんだ。
だってわかんなくないか?
AVとかはモザイク掛かってるとは言え、本番でどんなことしてんのかって大体はわかるじゃん?
でもディープキスってのはさ───────
“中”がどうなってるのかって外からは見えないじゃん?
だからずっとわかんなかったんだよな。
ぶっちゃけ、コイツとヤッた時もこんなディープキスなんてしてねぇし─────
こんなことなら恥ずかしがらずに概史か御月に聞いとくんだった。
俺はその事を痛烈に後悔しながらも─────必死で甘い蜜を小泉(13)の身体に流し込むように押しこんでいった。
どういう訳か、甘い蜜はこちら側にも押し戻される。
小泉(13)がささやかな抵抗をしてるんだろうか。
押し戻された甘い蜜をもう一度向こうに流し込む。
小泉(13)の小さな舌が震えるように絡みついて─────意識がぶっ飛びそうになる。
甘い蜜と俺、それから小泉(13)の境界線がだんだんとわからなくなっていく。
どこまでが俺でどこまでが小泉(13)で───────それから、どこまでが甘い蜜なのか。
全ては溶け合うようにとろけて一体化している。
熱い体温ととろける蜜がメチャクチャに気持ちいい。
ずっとこうしていたい。
もしかしたらセックスした時より気持ちいいかもしれない。
このまま時間が止まればいいのに。
俺たちは無我夢中で──────お互いの存在を求め合っていた。
誰かに見られたらアウトだよな……




