ep6『さよなら小泉先生』 “間違った感情“
この瞬間、俺は幸せだった。
「……佐藤君」
小泉(13)はか細い腕で俺の身体にしがみ付いてくる。
「これからはずっと一緒に居てくれる……?」
その泣きそうな声に俺の胸はズキリと痛んだ。
小泉、と俺はその名を呼んで強く抱きしめた。
「俺、しばらくの間……ここを離れなきゃなんねぇんだ───────」
震える声でそう告げると小泉(13)が首を振る。
「しばらくってどれくらい……?そんなの嫌だよ……!」
それは俺だって嫌だ。本当なんだ。
俺は小泉(13)の顔を見つめた。
「例え何年掛かったとしても─────俺達、絶対また会えるから。約束する」
だから……と言いかけて俺は言葉を詰まらせた。
小泉(13)は静かに俺の腕の中で震えている。
顔を上げた小泉(13)は俺を見てこう言った。
「私、最初から知ってたよ。こうなることはわかってた筈なのに───────」
だけど、やっぱり悲しいよ、と小泉(13)は頬に大粒の涙を落とした。
「……佐藤君て、この世界の人じゃないもんね」
え?
「いつかはこうなるんじゃないかって気がしてたんだ」
……お前、どうしてそれを、と俺が言い掛けると小泉(13)は俺から数歩下がってこう呟いた。
「だって佐藤君の身体の端、前からずっと透けてたんだもん」
俺は咄嗟に自分の両手を見た。
半透明の手のひらから風に揺れる赤い彼岸花が透けて見える。
「……!!」
この世界で“幽霊”だったのは俺の方なのか────────?
俺が絶句していると小泉(13)はこう続けた。
「幽霊でもなんでも、何年掛かっても私は佐藤君のこと絶対、見つけてみせるから─────────」
私、佐藤君のこと好きだもん、と小泉(13)は俺の目を見て真っ直ぐに言った。
小泉(13)。
そんなの、俺だって同じだ。
俺もコイツの事が好きなんだ。
失って初めて気付いた自分の感情。
だけど。
これはきっと───────“間違って”るんだろうな。
“間違った未来”へ繋がる“間違った選択肢”。
あの時のあの行為も含めて─────────きっと俺たちのこの感情は間違ってるんだ。
俺はポケットの中を確認する。
未来の小泉に貰ったもの──────────波打飴はポケットの中で夕日の光を浴びていた。
ここで使うしかねぇよな。




