ep6『さよなら小泉先生』 幼い体温
小泉──────
小泉(13)は今にも泣きそうな表情を浮かべている。
対峙した俺たちはそのまま息を呑んだ。
「……佐藤君。ずっと探してたんだよ」
最初に口を開いたのは小泉(13)の方だった。
やっぱり、私のこと嫌いになっちゃったの?という小泉(13)の言葉を俺は全力で否定した。
「は!?何言ってんだよ!?そんなこと絶対ねぇし!?」
むしろ逆っつうか、としどろもどろに答える俺の顔を小泉(13)はじっと見つめてくる。
「……逆って?」
小泉(13)はなおも泣きそうな顔で訊いてくる。
「なんだよ?そんぐらいわかれよ?」
わざわざ言わせんな、と俺は視線を逸らした。
こんな時になんて言ったらいいのかなんて俺には全然わからねぇんだ。
なんて言えばいい?
なんて言えば気持ちが伝わる?
俺は視線を泳がせながら必死で考えを巡らせた。
俺は口下手なんだ。気の利いた台詞や言葉なんて何も知らない。
一体どんな風に言えば─────────
躊躇している俺に対し、先にとてつもない豪速球を投げて来たのは小泉(13)の方だった。
「私、あの時──────両思いになったんだって思って……すっごく嬉しかったよ」
唐突に繰り出された火の玉ストレートのような言葉に俺は心臓を撃ち抜かれた気分だった。
けど、と小泉(13)は続けた。
「そう思ってたの……私だけだったのかなって───────」
小泉(13)の言葉を遮るように俺は叫んだ。
「あ?何、馬鹿な言ってんだよ!?」
え?と小泉(13)は聞き返す。
二人の間をサッと夕暮れの風が吹き抜け、彼岸花の大群も揺れた。
なんで気付かねぇんだよ、と前置きをしてから俺は言った。
「俺、お前のことが好きだ。ずっとお前に逢いたいって思ってた」
俺も探してたんだ、お前のこと──────静かにそれだけを伝えた。
カッコいいシチュや台詞なんて何も思い浮かばないし俺にはどうしようもない。
素直に思ったことを口にする以外の手段を俺は持たなかった。
「急に姿をくらまして悪かったと思う────────心配掛けたよな?」
俺がそう告げると小泉(13)はボロボロと涙を流した。
「……佐藤……くん……」
「ちょっ……!泣くなよ!」
俺は女に泣かれるのが一番苦手なんだ。
俺は小泉(13)との距離を一気に縮め、そのままその細い身体を抱き寄せた。
「俺、本当に……お前のことが大事なんだ。自分のことよりも────────」
やっと言えた。




