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ep6『さよなら小泉先生』 サンドウを通る

フワフワする。

ユラリ、と身体が宙に浮くような浮遊感。


心地良さと眩暈が同時に身体を覆う。


安っぽい古びた遊園地のアトラクションみたいな─────全身が無理矢理に回転させられるような感覚。


意識はぼんやりとして身体は眩しい光に包まれている。


だけど、何かの甘い匂いが周囲からほのかに感じられた。


何の匂いだろう?


どこまでも続く真っ白な空間。


白すぎて何も見えないんだ。


俺の意識は遠のいたり近付いたりをゆらゆらと繰り返している。


身体は綿になったように全く感覚がない。


ぼんやりとした思考の中で子どもの声……複数の子どもの声が聴こえて来る。


『〽︎ とおりゃんせ とおりゃんせ』


最初はボソボソとしか聴こえなかったその声がだんだんと近付いて来る。


『〽︎ ここはどこの ほそみちじゃ』


いや、遠くか?どっちだ?


『〽︎ てんじんさまの ほそみちじゃ』


距離感は全く掴めない。


『〽︎ ちょっと とおしてくだしゃんせ』


なんだ……?なんて言ってる?ノイズが入ってよく聴き取れないんだ。


『〽︎ ごようのないもの とおしゃせぬ』


それは何処かで聴いたことのあるような─────歌なんだろうか?


童謡?わらべ唄?


『〽︎ このこの⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ おふだをおさめに まいります』


多分、一度は聞いたことのある曲のはずなんだが思い出せない。


なんだ?知っている曲だと思うんだが判らない。


前にも似たようなことがあった気がする。


不意に風が吹き、頬に当たる。


歌声はだんだんとはっきり強く、近くなってくる。


『〽︎ いきはよいよい かえりはこわい』


何もわからない。


どこから聴こえて来るんだ?


四方八方から子どもの声が聴こえる。


『〽︎ こわいながらも』


あちこちに子供は散らばっている。


こんなに大勢どっから来たんだよ?


子どもの声は次第に大きくなってくる。


ここは保育園か幼稚園なのか?


浮遊感が更に強くなる。


急に鈴の音が鳴り、パッと解放されたように全ての感覚が元に戻った。


子どもの声も気配も消えていた。


静寂と空白。


至近距離、俺の耳元で誰かが囁いた。







『 〽︎ とおりゃんせ とおりゃんせ 』









その瞬間。


パチンと誰かが手を叩いたような音が聞こえた。


俺は目を開けた。


視界に飛び込んできたのは──────天井だった。


見慣れた天井。


俺の自宅、いつもの俺の部屋だった。


俺は自宅の布団の中に横たわっていた。


周囲はしんと静まりかえっている。


俺は布団の中でしばらくぼんやりと考えを巡らせた。


さっきまで何をしてたんだっけ?


何も思い出せない。


昨晩は普通に寝た?


いや……それすらもわからない。


身体と頭は風呂上がりのようにスッキリとしている。


一晩寝て起きただけなのに体力気力が全回復したかのような勢いだ。


でも─────さっきまでここじゃない場所に居た気がするような。


何処だっけ?


部屋の時計が目に入る。


午前四時。


布団の横に転がっているスマホを手探りで掴もうとする。


スマホではない何かに手が触れる。


なんだ?


掴んだそれは─────飴玉だった。


飴玉??


ん?一粒だけ?


何処かから持って帰ってきたっけ??


買った覚えはない。


やっとスマホを探り当て、右手で掴む。


そのホーム画面を凝視する。




”9月21日 4:04“





デジタルの表示が目に映る。


21日???


そうだったっけ??


夏休み明けだったような気もしたが─────


俺の勘違いか?


何でだっけ?


俺って何してた?


もう少ししたら思い出せそうなんだけど──────


手元のスマホは沈黙を守っている。







とにかく、着替えて学校に行ってみよう。それしかない。


何も思い出せない。

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