ep6『さよなら小泉先生』 浮上した重要参考人
聞けば聞くほど奇妙なハナシじゃねぇか。
待てよ?
俺はふと、ある事に気付いてポケットから銀色の缶を取り出した。
例の銀色の缶───────蓋を開け、シンジには見えないようにコンドームを掻き分ける。
缶の一番底にある、小さく折り畳んだ紙片を取り出して広げてみた。
諸星キクコに関する一連の出来事の際に奴等の身分証をパクってコピーを取ったものだ。
そう、アイツらは二人組なんだ。
鬼怒川豪志と、あともう一人─────────武者小路雪平。
コピーした身分証を改めて確認した俺は息を呑んだ。
武者小路の学生証。
市内にある私立大学に在籍中である事が記載されていたのだが────────その学部が問題だった。
「薬学部!?」
俺は思わず声を上げた。
何度か確認はしていた筈だが、大学名や学部までは見てはいなかった。
ぶっちゃけ、俺が見てもよくわからんと思ってたからな。
だが────────薬学部ともなれば話は別だ。
当然だが一般人や素人より薬物には詳しいってコトだよな?
だってそれ専門で勉強してんだろ?
それに─────大学のことはよく知らねぇが、薬学部ってのは実習もあるんじゃねぇのか?
一般人より薬物を扱う機会も知識も多いハズだよな。
「あの……どうかされましたか?」
俺がコピー用紙を握り締めて黙り込んだのを不審に思ったのだろう。
シンジが俺の顔を覗き込んだ。
「あ、いや……」
シンジにどう説明すべきだろうか。
俺は慌ててコピーされた身分証の紙を折り畳んだ。
最初から事情を話す?
だけど、一体どこから?
呪いの話なんてシンジからしたら信じられないだろう。
俺は首を振った。
話す必要は無いんじゃないか?
だって──────この世界線に留まる理由なんて無いんだ。
俺は鞄に入れた封筒をチラリと確認した。
鬼怒川鏡花に息を吹き掛けさせた人形。
“未来の小泉”の指示通りにするなら──────俺は元に居た世界線、いつもの日常に戻れるんじゃないのか?
だったら、間もなく終わる予定のこの世界の事なんて気にするべきじゃないのかもしれない。
未来の小泉がくれたチャンスを棒に振る訳にはいかないだろう。
シンジの話も滅茶苦茶気にはなるが……今はそれどころじゃないんだ。
俺はすごく雑な誤魔化し方でシンジの問いかけをかわした。
「あ……すいません。ちょっと次の予定が入ってまして──────そろそろ、お暇しますね」
我ながらものすごく雑な返し方だよな……




