ep6『さよなら小泉先生』 地獄の詰め合わせ
偶然がもたらした悪魔ってことか。
「……変換されて特別変異のような状態になった[電子ドラッグ]が催眠アプリのような効果をもたらしていると──────?」
そういう事なんでしょうか、と俺はシンジに訊き返した。
「まあ、概ねそんな感じだと思って頂いて大丈夫です」
ただ、とシンジは深刻そうな顔で付け加えた。
「発動条件は更に複雑なんです。この動画単体では意味をなさなくて──────ある脱法薬物がトリガーになるそうです」
「脱法薬物!?」
催眠アプリに電子ドラッグ、挙句に脱法薬物か。
生真面目なシンジの口から出てくるとは思えないイリーガルな単語の数々に俺は面食らう。
だが、問題はそこじゃない。
オカルトマニアでもなければ都市伝説愛好家でもないシンジがこんな奇妙な話を俺に語る理由はたった一つだ。
「あの、これらの電子ドラッグや脱法薬物というのはもしかして──────」
小泉さん……あなたのお姉さんと何か関係があるのではないですか、と俺は直球でシンジに問いかけた。
俺、回りくどく聞くのは苦手だからな。そういうやり取りって下手くそだし。
「……はい。おっしゃる通りです」
シンジは肩を落とし、脱力したようにそれを認めた。
「確信があるという訳では無いんです。ただ、鏡花姉さんがおかしくなった時期と─────その[催眠セット]が一部の若者達の間で話題になっていた時期と一致するというだけで」
「[催眠セット]?」
今度は催眠セットか。催眠アプリ、電子ドラッグ、脱法薬物。挙げ句の果てには催眠セットときたもんだ。
まるで犯罪のバリューパック、地獄の詰め合わせじゃねぇか。
はい、とシンジは頷いた。
「現在ではその動画サイトにアップロードされた[電子ドラッグ]の投稿は運営によって削除されています。当然ですよね」
しかし聞いたところによると……ダウンロードされた動画ファイルが最近また出回りはじめたらしくて、とシンジはやや語気を荒げて続けた。
「けど、動画ファイル単体では意味をなさないんでしょう?」
それならば問題は無いのでは、と俺が何気なく言うとシンジは首を振った。
「それがそうでもないんです。一緒に使うと効果があるとされている脱法薬物は……特定の市販薬を組み合わせて作られているものらしいんです」
──────市販薬の組み合わせで作る?
それって………場合によっちゃ誰でも入手可能って事じゃねぇのか!?
市販薬ってあれだろ、ドラッグストアとかで売ってるやつだろ?




