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ep6『さよなら小泉先生』 世界の終止符

身体中、傷だらけでヒリヒリする。

一旦、家に帰った俺は服を脱ぎ捨てシャワーを浴びた。


爺さんの残したヴィンテージな背広は泥だらけだった。


身体の汚れや血を全て洗い流した後、トランクス一枚のまま部屋を徘徊する。


救急箱を開け、傷薬を取り出す。


怪我をした部分に包帯を巻き、簡単に手当てを終えた。


再び爺さんの箪笥の引き出しを開ける。


会社勤めをしていた爺さんはスーツ類は結構持っていたようだ。


適当にそれらしいワイシャツ、パンツ、ベストとネクタイ、スーツを再び見繕う。


ワイシャツとパンツ、ベストに袖を通す。


鏡で見ると、やっぱりどう見ても不自然な感じはする。


だがそれは大した問題ではないようにも思えた。


鬼怒川鏡花。


もう一度、あの場所に赴かなくてはいけない。


万が一にも鬼怒川豪志と鉢合わせしたら大変な事になるだろう。


恐らく、昼間の方がその可能性は低いのではないか。


そう判断した俺は放課後を待たずに例のアパートに行く事にした。


早い方がいい。


そんな気がしたんだ。


例の……ボロボロの乳母車を押した鬼怒川鏡花。


あの悲惨な姿の小泉と再び対峙しなくてはならないというのは───────俺にとってはなかなか勇気の要る事だった。


だけど、迷ってる場合じゃねぇよな。


全ては俺に掛かってる。


今、俺が居る世界は“間違って”いるんだ。


本来なら存在し得なかった──────歪んだ世界。


元はと言えば────────全部俺が引き起こした事態なんだ。


『セックスなんて一生したくない』なんて散々カッコつけてた挙句にこのザマじゃねぇか。


俺は俺自身のやってしまった事に対し、向き合う義務がある。


鬼怒川鏡花。


俺自身の罪の形の象徴みたいな存在。


もう一度、キチンと話をしなきゃいけない。


未来の小泉がくれた挽回の機会を逃す訳にはいかなかった。


未来の小泉────名前は知らないし、結局聞くことも出来なかったが─────


鬼怒川鏡花と未来の小泉は対極の存在であるようにも思えた。


最後の瞬間、未来の小泉が見せた笑顔。


俺はただの一度も小泉のあんな表情を見たことがなかった。


俺と居る時の小泉はいつも眉間に皺を寄せて─────怒っているか不機嫌にしているか、或いは呆れているか。そのどれかだった。


だけど。


あの時の小泉の表情はとても穏やかで────まるで聖母のようにすら思えたんだ。


俺の知らない笑顔の小泉。


きっと、未来の小泉の旦那になった男のお陰なんだろうな。


あの小泉を変える力を持った包容力のある男なんだろう。


俺の慢心で招いた結果の世界に居る“鬼怒川鏡花”も─────あの時、井戸に居た13歳の小泉も。


それから、いつもの俺が知ってる赤ジャージの副担任の小泉も。


全員纏めて“正しい未来”の旦那の元に送り届けてやらなきゃいけねぇよな。


俺にはその義務があるんだ。


俺は残りの人生─────嫁に出すまでは絶対に小泉を守る。


それが俺の出来る唯一の贖罪じゃねぇか。









そう決意した俺は─────────ジャケットを羽織り家を後にした。


今度こそ絶対に間違えない。

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