ep6『さよなら小泉先生』 記憶を切り取る選択肢
なんでこのタイミングで菓子?
「……飴??」
それは透明なセロハンで包まれた水色の飴だった。
「飴玉なんかもらって大喜びするほどガキって訳でもねぇけど─────?」
何か意味があるんだろうか。
「これは『波打飴』って言ってな。スエカ婆ちゃんが四年に一回の閏年の日にだけ作ってる貴重なものだ」
『涙打飴』?妙な名前の飴玉だな。
「いや、それより10年後ってスエカ婆ちゃんはまだ健在なんだ?そっちの方が気になるわ」
俺がそう聞くと小泉はこう答えた。
「相変わらず元気だよ。ピンピンしてるさ」
俺はそれを聞いて安心した。
小泉は結婚し、スエカ婆ちゃんが生きている未来。
おそらくこっちが本当に“正しい未来”なんだろう。
「そりゃ良かったよ。けどさ、飴っていってもなんで一粒だけなんだよ?」
俺は手のひらの上の飴玉をじっと眺めた。
まるでビー玉のように透明でキラキラとした飴。
「さっきも言っただろ?四年に一回しか作れないから数が少ないんだ」
……これはもしも“必要な時”が来たら使ってくれ、と小泉はやや慎重な様子で俺に言った。
「必要な時って……飴は飴だろ?腹減った時って意味?」
いや、と小泉は首を振った。
「この『波打飴』には─────口にした人間の記憶を消す効力があるんだ」
「ハア!?」
俺は思わず叫んだ。
スエカ婆ちゃんも妙なアイテムを製造してるのな?
「記憶を消す!?」
超ヤバいブツじゃん?!
脱法ドラッグか!?
てか、そもそも原材料ってどうなってんの!?
俺のリアクションを気に留める風でもなく、小泉は淡々と説明を続ける。
「そうだ。一回分しかないからな。よく考えて使うんだぞ」
人の記憶を消す。
よく考えたらとんでもねぇ代物じゃねぇか。俺に渡していいのか?
「そもそもこんなヤバいブツ、なんでスエカ婆ちゃんが作れるんだよ?」
「昔からスエカ婆ちゃんが閏年にこれを作っていてな。昔は私もよく手伝ったものだ」
小泉は感慨深そうに呟いた。
いやいやいや………決まったルーティンで作ってんのかよ……
てか、作られたこの飴ってその後どういう使われ方とかしてんの?
これを使うシチュって想像もつかないんだが──────
しかし、小泉が俺にこれを渡してきたってことは──────何かそういう局面があるのかもしれない。
急にヤバいのが出てきたな。




