ep6『さよなら小泉先生』 逃避途上の休息
膝枕ってこんなにいいものだったんだ。
「お前……このまま赤ん坊に戻りたいとか思ってるだろ?」
「えっ……!?なんでそんな事までわかんだよ!?」
図星を突かれた俺はしどろもどろに答える。
小泉は悪戯っぽく笑いこう言った。
「─────だからお前の事は何でもお見通しだって言っただろう?」
まあ、ホントのことなんだけどさ。
「普段はバイクだ酒だ煙草だって虚勢を張ってるが……お前の本体は赤ん坊みたいなものだな」
小泉のその言葉に、少し気恥ずかしくなった俺はヤケクソで答えた。
「……ああ、もういいよそれでさ。今の俺は赤ちゃんだよ。これで満足か?」
「おいおい、ホントに赤ちゃんみたいになってどうするんだよ」
小泉が俺の額をピシャリと叩く。
「拗ねてる場合じゃないだろう?今のお前にはやらなきゃならない事がある」
そうだろう?と小泉は穏やかだが真剣なトーンで俺に問いかけた。
「やらなきゃいけないこと──────」
俺は小泉の顔を見た。
「今更俺に何が出来るんだって言うんだよ?それとも──────」
まだ何か策でもあるのか?と俺が聞き返すと小泉は頷いた。
「お前はどうしたいんだ?」
俺は起き上がると暫く考え、小泉の目を真っ直ぐに見て言った。
「もしもやり直せるなら────今までの日常に戻りたい」
日常に戻って真面目になって……ちゃんと呪いを解きたい、と俺が言うと小泉は柔らかく微笑んだ。
「それに……俺のせいで人生が滅茶苦茶になってる“鬼怒川鏡花”も──────元に戻してやりたい」
小泉は俺の頭をまたグシャグシャと撫でた。
「その言葉が聞きたかった……!」
なんだよ。ブラックジャックみたいな事を言うじゃねぇか。
「でも……やり直したいとか言ってもさ、そんなことは理論上やっぱ無理なんじゃないか?」
さっきはカッコ付けて言ってみたものの、少し弱気になった俺はそのままの感情を小泉にぶつけた。
「今回、私がここに来たのはちゃんと理由がある」
小泉はスッと立ち上がるとスーツのポケットから何かを取り出した。
「私からお前に───────三つの頼み事があるんだ」
何かの手段があるのか…?