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ep0. 「真夏の夜の爪」 ⑤ケーキを切ろうとする不良少年

どう切る?

部屋に入るなりマコトは持ってきた紙袋をテーブルに置く。


部屋は熱気に包まれている。


「……保冷剤めちゃくちゃ多く入れといたからあと少しは持つと思うんだけど」


箱を少し開け、ケーキを覗き込んだ慨史が大袈裟にはしゃぐ。


「高そうなケーキっスね!どうしたんです?先輩」


「おー。ホールのケーキなんか食う機会ねぇよなぁ」


少年も物珍しそうに呟きながらハンディ扇風機のスイッチを入れる。


「……たまにホールのケーキ持ってきてくれる親戚がいるんだけどさ。僕の母親、既製品のお菓子とか嫌ってて。いつも食べずに捨てちゃってて。勿体無いよね。病的だって思わない?ケーキをゴミ箱にダンクだよ?」


マコトは紙皿とフォークをテーブルに並べる。


「……親戚の人さ、僕が小さい頃にポケモンのケーキ貰ってすっごい喜んでたの覚えてたみたいでさ。僕が大きくなってもずっとホールのケーキ持ってきてくれてるの。でも母親は親戚の前ではニコニコしてさ、影では嫌な顔してるの。僕、なんか悲しくてさ」


「え?厳しくないスか?ダメなんスか?」


「……そうなんだよね。でもここだと好きなもの自由に食べられるし」


「あぁ?でもオメーよぉ、四六時中なんか喰ってね?いつもグレープっぽい匂いする。」


プレハブの窓を開けながら少年が振り返る。


「……ああ、これ?」


マコトは舌を出す。細い舌には小さなガムがへばりついている。


「……なんかね、虫歯予防とかでキシリトールのガムだけは許可されてるんだよね。しかもグレープだけ。謎だよね。整合性なくない?」


「他は何食べてるんスか?」


「……これ以外は全部母親の手作りのだよ。身体にいいとかでさ。あんま嬉しくないね」


マコトはポケットに手を入れる。


「へー。おれはいいなあって思っちゃいまスけどね。羨ましいっス」


「……あ、そうだ。飲み物買い忘れちゃったから買ってくるね。すぐそこのコンビニ行ってくるよ。10分ぐらいで帰るからその間にケーキ人数分に切っててくれる?」


「あざっス!じゃ、おれ切るっス!」


概史が張り切って果物ナイフを手に取る。


「……概史はファンタオレンジで……ガックンはモンスターの緑でいいんだっけ?」


ああ、と少年は小さく返事する。


マコトは尻ポケットの財布の中身を確認しながらドアに向かう。


「……ケーキさ、保冷剤ギリギリかもだから早く食べよ?速攻で買ってくるからすぐ食べられるようにしといてね?」


やや早足でマコトはコンビニに向かう。


「ほーん。すぐに、ねぇ……」


少年は一人呟く。


「で、どうすンだよ?」


「どうするって、なにがっスか?」


「ホールのケーキってどういう風に3つに切るンだよ?」


「……そっスね」


概史は黙り込む。


「なんでスっけ、分度器?使うんスか?今持ってないっっスねぇ」


二人の間を沈黙が通過する。


「え、無理。こういうのって俺やったことねぇからわかンねぇよ」


少年が後頭部を掻き毟る。


「でもキレイにケーキ切れてないとマックン先輩の方がキレるっスよねぇ…」


「キレるっつーかなんかまた鼻で笑うンだろ、失笑っつーかよぉ…」


「あ、ちょっと待ってください。これ正解分かったっス」


概史はふと立ち上がりキッズ携帯を手に外に向かった。

何切る?

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