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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㊽子宮と卵巣の行方

考えたこともなかった。

それは少年が生まれてこのかた考えたことのない恐ろしい言葉だった。


生き物の腹部から健康で機能に問題ない子宮を、その卵巣を摘出する。


摘出した子宮と卵巣は何処へ行くんだ?


ホルマリン漬けにして保管する?


いや、保管して必要な時に繋ぐなんて出来るはずない。


これって取ったらもう最後って事?


少年は不意打ちで初めて突きつけられた現実に滅多打ちにされた。


自分の身体から血の気が引いたのが実感できた。


「費用は安くても三万くらいかかるかもだし、傷を最小限に出来る腹腔鏡手術だと十万くらいかな。後はずっと毎日エサも要るしトイレの砂も要るでしょう?定期的にワクチンも打たなきゃいけないし」


佑ニーサンは非常にも更に追い討ちを掛ける。


今まではマコトが持って来てくれた猫缶や餌などを与えただけであったがこれからは本格的に出費が必要になってくるだろう。


……もし、その三万だか十万だかを工面出来たら俺が飼っていてもいいのか、と蚊の鳴くような声で少年は呟いた。


「ダメだね」


佑ニーサンが首を振る。


「ガックンが知ってるかわかんないけどさ、動物って保険効かないの知ってる?」


「保険?」


少年は聞き返す。


「ガックンが病院に行く時は保険証出すでしょ?出さないと高くなるでしょ?動物は保険が効かないんだよ」


は?そんなの知らねぇし?払ってやるよそんぐらい!と少年は語気も荒く反論する。


「猫が腎臓病になったら年間で二十七万ほど掛かるよ。骨折したら二十万くらい掛かることもある。ガックンに払える?」


少年は絶句した。


そんなに金がかかるのか。


未知の金額と現実を突きつけられた少年はそれでもなお食い下がった。


は?何それおかしくね?と再び力任せにカウンターを蹴りつける。


「金が無い奴は動物飼っちゃいけないのかよ!?」




「そうだよ」





間髪入れずに佑ニーサンがピシャリと言い放った。


「ガックンのとこでマサムネを飼っても病気になったら結果的に見殺しにするだけでしょ?何十万も持って無いし工面出来ないでしょ?」


でも、と佑ニーサンは続けた。


「きちんとした人に引き取って貰えれば病気や怪我の時にも適切な治療が受けられるしワクチンもちゃんと打ってもらえる。長生きも出来るんだし」


少年は反論する言葉を持たなかった。


佑ニーサンの言う通りだと思った。


俺が飼ったらマサムネを不幸にするんだ、と少年はぼんやりと悟った。


「今のキミには猫の子一匹飼うこともできない。ましてや人間の赤ん坊だなんて無理だって事が解っただろう?」


佑ニーサンはゆっくりと少年の俯く顔を見た。






「自分が一人で生きていくだけで精一杯だ。しかもそれですら危ういかもしれない。違うかい?」


俺にはその資格がない。

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