ep0. 「真夏の夜の爪」 ㊼避妊と蹂躙
さっきから説教ばっかじゃねぇか。
へへ、と笑う佑ニーサンの表情は少しも笑ってはいなかった。
「メスって事はさ。妊娠するって事だよ?」
人間も猫もそこは同じでしょ?男は妊娠できないんだし、と佑ニーサンはやや真面目そうなトーンで呟いた。
「だったら何だよ?分かり切った事じゃねぇか」
少年は吐き捨てるように言う。
「マサムネが妊娠して子猫を産んだらどうするの?猫って平均したら五匹くらいは産むけど?」
それは…と少年は眉間に皺を寄せる。
「そういう時って里子とかに出すンじゃねぇの?よく張り紙とかで見るぜ?」
うん、と佑ニーサンは静かに呼吸する。
「ガックンはさ。自分が母親にされて嫌だった事をマサムネの子どもにするの?」
同じようにさ、と佑ニーサンは床に落ちたグラスを拾う。
少年は絶句した。
恐ろしい現実が今、目の前に提示されていた。
「マサムネが産んだ子猫を取り上げて里子に出す。甘えたい盛りの子猫は母親から引き剥がされる。つまり、母親から子どもを取り上げる。結局そうしようって事なんだよね?」
ふざけるなよ!と少年がカウンターを力任せに蹴る。
「子猫や子犬あげますとか世の中にいくらでもあるンだろ!?何で俺だけマサムネを取り上げられなきゃいけねぇンだよ!?」
まあまあ、と佑ニーサンは拾ったグラスをカウンターに置く。
「避妊手術って手段もあるけどね。聞いたことある?」
ああ、と少年は苛々した様子で頷く。
「じゃあその手術ってヤツをすればいいンだろ?それでいいじゃねーか」
少年はドカッと椅子に座る。
じゃあガックンは避妊手術って何をするか知ってる?メスの場合だけど、と佑ニーサンは少年の目を見た。
「左右の卵巣と子宮を摘出するんだよ」
少年は一瞬、おぞましい何かに身体を蹂躙されたような感覚に襲われた。
卵巣と
子宮を
摘出する。
こんな手術があるなんて考えたこともなかった。




