ep6『さよなら小泉先生』 How to be a Girl
別に本気って訳じゃないし。
本当に冗談のつもりだったんだ。
ちょっとビビらせてやろうって思っただけだったんだよ。
多分、ビビりの小泉のことだからすぐに『嫌だ』とか『やめて』って言うと思ったし──────
そう言われたらマジですぐにやめるつもりだったんだよ。本当なんだ。
────────その時までは。
俺が小泉(13)の身体に体重を掛けると、セーラー服のスナップボタンが幾つか弾ける音がした。
プチプチ、という音が薄暗い小屋の中に響く。
何処のスナップだろう。
鎖骨の下辺りに付いてる三角の部分?
セーラー服のこの部分って何の為にあるんだろうな?
俺に組み敷かれてもなお、小泉(13)は抵抗もせず無言のまま俺を見つめていた。
なんだ?どうしたっていうんだよ?
俺の方が不安になる。
いつもの小泉らしくねぇじゃねぇか。
ほら、『嫌だ』って言って騒いだり暴れたりしてみろよ?すぐにやめてやるんだからさ。
たまらず俺の方から言葉を発する。
「……なあ、お前さ、ナメてんの?俺のこと馬鹿にしてんのか?」
そこまで俺のことヘタレって思ってんの?と俺は小泉(13)に凄んでみせる。
こんな事しといて何だけどさ、それはそれで傷付くんだよな。
「ううん。別に佐藤くんのこと馬鹿にしてるって訳じゃないよ。ただ────」
このままにしとくとどうなるのかなって────ちょっと気になって、と小泉(13)は怯える様子もなく呟いた。
「ハァ!?」
予想外の小泉(13)のリアクションに俺は拍子抜けしてしまう。
「何言ってんの?だからさ、このままだとお前、ヤられるんだけど!?」
わかってねぇのか!?と俺は小泉(13)の両肩を更に強く掴んで力を込めた。
「……なんかね。それがイメージ出来ないっていうか────ピンと来なくて。具体的にどうするの?」
服とか脱がされるの、と小泉(13)はふざけている様子でもなく普通に俺に問いかけてきた。
俺は狼狽した。
コイツ、ガチで理解してないのか?
嘘だろ?中2だから同級生だろ?
それとも─────“自分の身には起こらないこと”って認識なのか?
「お前もさ、さっきの少女漫画、読んだんだろ?じゃあ分かってるだろうがよ?」
ああいう事されんだよ、と俺は答えた。何の会話なんだよこれは。
俺の方も何が何だか分からなくなってくる。何してんだよ俺。
「……でもさっき佐藤くん、『あれは作り話だ』って言ってたでしょ?だから現実では違うのかなって────」
小泉(13)は真剣な様子で俺を見つめてこう言った。
「もしこのまま……私が逃げたり拒否しなかったら─────最終的にどうなるのかなって」
どこに着地するのか───すごく知りたいって思ったから、という小泉(13)の言葉に俺は目眩がしそうになった。
馬鹿なのかコイツは?
馬鹿ってレベルじゃねぇな。
コイツ、ここまで能天気で楽観的な考え無しだとは思わなかった。
こんなスカスカの脳味噌じゃ、遅かれ早かれ変質者か犯罪者にハイエースされて輪姦されるのが目に見えてる。
このレベルのオツムでどうやってこの先の人生を生きてくんだ?
絶望的じゃねぇか。
じゃあさ。
俺が教えてやれる最大のリスクマネジメントっていうかさ──────
つまり。
俺がコイツに “わからせ” てやればいいんだ。
今後の人生における危機的なダメージを回避できると思えばさ、この程度なら低コストじゃねぇの?
俺はゆっくりと小泉(13)の顔に近付いて─────そのまま唇を奪った。
その唇は、カルピスとアルコールの甘い味がした。
二人ともアルコールが入ってるもんな。