ep6『さよなら小泉先生』 『TALKING ABOUT SEX(Girl's Side)』④
女子の手首って随分と細いのな。ビックリした。
その瞬間。
俺の視界がグラリと揺れた。
「え?」
気付けば俺は、小泉(13)を組み敷くような体勢になっていた。
「!?」
意味がわからない。
俺は小泉(13)の腕を掴んでただけで───────押し倒そうなんて微塵も思っちゃいなかったのに。
「あれ?」
俺の下では小泉(13)が苦笑いを浮かべていた。
「こういう時のための合気道の護身術とかっていうの教わってたんだけど……なんか間違っちゃった」
相手の腕を引っ張るのはこっち方向じゃなかったかも、と小泉(13)は呟いた。
「はぁ!?」
思わず変な声が出てしまう。
「えっとね、『急に相手に手を掴まれたら』みたいなシチュの時の対処法があって─────あれ?どうだったかな?」
小泉(13)は首を傾げている。どうやら本人はマジだったようだ。
「いや、逆効果じゃね?むしろ変質者を受け入れて誘ってる感じになってね?」
なんで俺がお前を押し倒してる感じになってんだよ、と俺が言うと小泉(13)は考え込むような素振りを見せた。
「……そうかなぁ?ちょっとミスっただけだし……あ、もう一回やってみてよ!」
今度は上手く行くと思うんだけど、と言う小泉(13)の緊迫感の無さに俺は思わず声を荒げた。
「何言ってんだよ!?俺が暴漢だったらお前さ、確実にヤられてんだぜ?!?」
それに暴漢や変質者相手に『もう一回』もクソも無いだろうが、と俺が言うとなおも小泉(13)は納得いかないような表情を浮かべた。
「そんなのわかんないじゃない?!どうしてそうだって言い切れるの!?」
なんでそうやってさっきから脅すみたいなことばっか言うの!?と小泉(13)はムッとしたように俺を見る。
「『生兵法は怪我の元』ってよく言うだろ?イキって変な真似しない方がいいし……てかさ、お前、今の自分の状況わかってて言ってんのか?」
今の俺、いつでもお前を襲えるんだけど?と俺は小泉(13)を睨む付けるように言った。
なんでこの状況でボンヤリしたこと言ってんだよコイツは。馬鹿なのか?
俺は全くと言っていいほど危機感の無い小泉(13)に無性にムカついていた。
俺の言葉に対し、小泉(13)は少しハッとしたような顔をした後、また苦笑いで誤魔化した。
「何言ってんの?佐藤くんてそんなコト出来るような人じゃないでしょ?」
小泉(13)のその言葉に───────俺の中にあった何かが弾けた気がした。
俺はもう二度とセックスなんかしたくない。絶対にやらない。
やりたくないんだ。
────もう嫌なんだ。これ以上自分を嫌いになるのが。
これは誰にも話したことの無い俺の中だけの感情で─────誰にも絶対に触れられたくない弱い部分で。
なのに、そんな事を一回も話したことの無い小泉(13)に俺の中の何もかもを見透かされているような気がして──────
俺の身体の中の導火線に火が着いたみたいに感情が抑えられなくなっちまったんだな。
冷静に考えれば────多分、小泉(13)的には─────
『佐藤くんはそんな人じゃない』的な言葉の言い回しの裏には────俺への信頼感とか、そういうものを込めたつもりだったんだろう。
小泉(13)が俺に対してネガティブな感情を持ってる訳じゃない。頭ではそう解ってるはずなのに。
俺の中の苛々して爆発したような感情は自分ではもうどうしようも無くなってたんだよな。
昼間にあった事件と──────勝手に飲んだ御神酒。
アルコールのせいにしていいって訳じゃ無いことくらい自分でもよく分かってる。
だけど。
俺は小泉(13)を組み敷いた体勢のまま、そのか細い両肩を掴んで全体重を掛けた。
「じゃあさ、今からお前のこと本気で襲うから───────逃げられるモンなら逃げてみろよ?」
ま、冗談なんだけどさ。