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ep6『さよなら小泉先生』 『契り』

酒ってさ、何かと割ったら急に呑みやすくなるよな。

酒を煽った俺達はすっかり酔ってしまったのかもしれない。


小泉(13)は顔を赤くして俯き、こちらをチラチラと見ている。


「……ん?もしかしてまだ呑み足りねぇとか?」


お前、いい呑みっぷりだったもんなぁ。追加で持って来ようか?と俺が声を掛けると小泉(13)は首を振った。


「せっかくの酒だったのにツマミも無しで一気に呑んじまったもんな。じゃがりこでも食うか?」


小泉(13)が持ってきた菓子類だが、俺は勝手に手に取る。


小泉(13)はモジモジとした様子で小さくこう呟いた。


「……そうじゃなくて、えっと」


「ん?じゃあなんだよ?」


もうちょい度数が高めの酒もイケるのか?と俺が訊ねると小泉(13)は思い切ったようにこう言った。


「……間接キス────しちゃったね」


「へ?」


小泉(13)から出た予想外の単語に対し、俺は思わず訊き返す。


「……そうなのか???」


俺としてはそんな意識なんて微塵も無かったのでかなり驚いた。


てか、小泉もそんなこと言うんだ────────?


意外というか、そんな事を気にするキャラじゃ無いように思ってたんだが。


そこまで考えてふと、俺の脳裏に夢の中の小泉の横顔がよぎった。


小泉が飲み切れなかったエナドリを俺が飲んだ時の─────あの戸惑うような表情。


夢の中の大人の小泉と──────目の前の小泉(13)は全く同じ表情であるように思えた。


夢の中なんてさ、現実じゃないし────そもそも目の前の13歳の小泉だって幽霊みたいなものなのに。


なのにどうして二人は同じ表情を浮かべてるんだろう。


いや、そんな事はどうでもいいか。


俺は空気を変えようと─────慌てて話題を変えようと試みる。


「いや、てかさ。俺としちゃ任侠映画みたいだなって感じだったんだけど」


ほら『兄弟盃』とか『契りを交わす』ってよくヤクザがやってるじゃん。カッコよくね?と俺はなるべく明るく返事を返した。


「えっっ!!!ヤクザさんって……間接キスしたりしてるの?男同士で?」


小泉(13)は更に変な箇所に反応する。


「いやそうじゃなくて!!兄弟の契りとかそういう──────」


「エッッッッ!!!!『契り』って──────エッチなことしてるの?」


小泉(13)はますます顔を赤くした。


小泉(13)は何を誤解してるんだ。違う、そうじゃねぇ!


「待て待て待て!」


その筋の人達の名誉の為に俺は慌てて訂正する。


「間接キスもしないし!!エッチなこともしない!!そういうんじゃねぇの!!セレモニーみたいなモンだから!!」


あれはそういうイベントなんだってば!!と俺はブンブンと首を振った。


「えー?でも……」


小泉(13)はなおも納得しない様子で俺を見る。


「同じ盃を使うんでしょ?」


じゃあやっぱそれって…………間接キスしてるってコトじゃん、と小泉(13)は小さく呟いた。


「……ええ」


俺の憧れだった任侠映画の世界も、女子中学生の感性からすると『間接キス』というワードで全て片付けられてしまうのか。


なんとなく俺は脱力してしまう。


任侠……ハードボイルドで硬派な男の世界が急にパステルカラーで塗り替えられたかのような衝撃。


「てかさ、お前ってそんなキャラだったっけ?」


俺は改めて小泉(13)を見た。


大人の小泉も小泉(13)も、そういった話題について触れたことって一度もなかったよなあ。


そもそも興味も関心も無さそうだったし─────


いつも漫画やゲーム、アニメの話題ばっかだったもんな。


それに今まで読んでた漫画ってのは主に少年マンガで………海賊だったり忍者だったり、鬼を倒すとかのバトル物メインだったし。


菓子類の横にはいつものように漫画本がドサドサと積まれている。


その中に見慣れないジャンルの単行本が混ざっていることに俺は気付いた。


キラキラした目の女とイケメンが表紙に描かれた少女マンガだった。


「ん?お前もこういうの読むんだ?珍しいじゃん」


なんとなく気になった俺はその単行本を手に取る。


「俺、少女マンガってあんま読んだことねぇんだよな────」


「あ!!!それダメ!!」


俺の動きに気付いた小泉(13)が慌てた様子で俺を制止する。


「なんで?読んでる途中だったん?」


パラパラとその単行本を捲った俺の目に予想外の光景が飛び込んで来る。







その漫画の中では──────主人公の女とイケメンがかなりハード目なセックスをしている様子が見開きで描かれていた。


……実質エロ本じゃん

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