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ep6『さよなら小泉先生』 少年少女と大人たち

やっちまったよな……

「……随分と思い切った行動に出たわね」


開口一番、佐々木の呆れたような言葉が俺の心を更に重くした。


「流石にあなたのこの思考までは予測出来なかったわ」


これはわたしの落ち度でもあるわね、と佐々木はやや悔しそうに呟く。


「何がだよ?」


スッとボケたように答えはしたのだが──────佐々木には全て見透かされているような気もした


「定例の職員会議の場合は……議題や内容が予め書面で作成されていることが多いからこちらも動向を探ることが出来るのだけど」


今回は緊急だったこともあって─────こちらが情報を掴むのが遅くなってしまったようね、と佐々木は電話の向こうで溜息をついた。


「ついさっき────昼休憩の最後の辺りで明日の保護者会と緊急全校集会の議題の書面が上がってきたの」


佐々木が電話の向こうで険しい表情を浮かべているのが容易に想像出来た。


「てかさ、前から思ってたけどよ。お前が学校側の資料をフツーにハッキング出来てる意味がわかんねぇんだけど」


お爺ちゃん先生がお漏らししたパスワードが未だに生きてるってのまではわかるぜ?と俺は疑問を口にした。


「どうやってその教職員の共有ファイルにアクセスしてんだよ?」


俺の問いに対し、佐々木が答えた内容は馬鹿みたいにシンプルなものだった。


「ああこれ?だってわたしが使ってるこのパソコン、教職員用に支給されてたノートパソコンだもの」


「はぁ!?」


意味がわからなさ過ぎて思わず変な声が漏れる。


「マジで意味がわかんねぇんだけど」


俺がキレ気味に小さく叫ぶと佐々木は少し笑った。


「でしょうね。わたしもそう思うわよ。まさか岩本先生が『調べ物学習に要るだろ?』なんて言って内緒で貸してくれたノートパソコンのデータが消されてないままなんて」


1組の担任の岩本。


野球部の顧問であり、体育の教師だ。


ま、根っからの陽キャ教師と言えば聞こえはいいが──────要は脳筋タイプでもあるんだな。


明るくて生徒からは慕われてはいるが、あまり物事を深く考えずに行動するタイプにも思える。ま、俺はアレコレ言える立場に無いんだが。


「重要なファイルがゴミ箱に突っ込まれてたままだったんだもの。驚いたわよ」


なるほどな。


岩本の奴、パソコンとかの扱いが苦手っぽそうだもんな。デスクトップのファイルをゴミ箱に入れただけで『綺麗に初期化されたぞ!』くらいに思ってたんだろうぜ。


しかしまあ佐々木のことだ。例え岩本が『ゴミ箱を空にし』てたとしても────普通にファイルは復活させてただろうな。


「……なるほど。それでお前が何にでもアクセスし放題の見放題だった訳か」


そういうことね、と佐々木は相槌を打った。


これまではクソ田舎の中学ならではのガバガバなセキュリティのお陰で情報がリアルタイムで筒抜けだった訳だが─────今回は書面が後になるっていうイレギュラーな動きだったって事なのか。


「まあ、今回の学校側の動きは俺もお前も判ってなかったけどさ、向こうもそれは同じだろ?」


多分だけど、犯人の身元までは学校側は掴んでなかったんじゃないか?と俺はやや投げやり気味に答えた。


「……恐らくはそうでしょうね」


気のせいか佐々木の口調もどことなく重いように感じられた。


「教師ってのは……いや、大人ってのはさ──────しっかりしてんだか馬鹿なんだかわかんねぇな」


俺は思わずそう呟いた。それは紛れもない俺の本心だった。


小泉のようなチー牛でガチオタで気難しいのも居れば、岩本のような陽キャだけどちょっと抜けてる奴もいる。


それに─────あの二人組。


弱い立場の子どもを狙い撃ちして来るような人間のクズも居るんだな。


大人ってのはつくづくわからない。


俺はぼんやりとそんなことを考える。


それはともかく、と佐々木は強調した。


「貴方、学校に戻ってきたら今回ばかりはタダじゃ済まないわね。それ相応の覚悟が必要そうだわ」






佐々木のその言葉に──────俺の心と身体は鉛が詰め込まれたように重くなった。


見に来てくれる奴、いつもありがとな。

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