ep6『さよなら小泉先生』 処刑用BGM
コイツら、イキリ散らしてても所詮は雑魚なんだよ。
俺は鉄パイプを握る手に力を込めた。
男のうち、主犯格と思われる──────── 鬼怒川豪翔の喉元にパイプの先を突き付ける。
身動きすら取れず、こちらを睨み付けるしか出来ないようだった。
さっきのブラフ─────『録画されている』という文言が効いているのかもしれない。
ガタイこそいいが、実戦の経験は殆ど無いんだろう。所謂、“イキリ陰キャ”“キョロ充”みたいな人種なのかもな。
中古の型落ちハイエース買っていい気になって、未成年のガキ相手にやりたい放題やってきただけのクズなんだろうぜ。
俺の脳内に[勝利確定BGM][処刑用BGM]が流れる。
勝ち確。
そんな状況だと思っていた瞬間だった。
俺の身体は勢いよく吹っ飛ばされた。
「!?」
訳のわからないまま地面に転がる俺の視界に飛び込んで来たのは──────意外な人物だった。
「何やってんだ佐藤!」
竹刀を持った小泉が険しい表情のまま俺を見下ろしていた。
「は!?」
意味がわからない。
どうしてここに小泉が?
「お前は馬鹿か!?周りをよく見ろ!」
ズキズキと痛む右頬をさすりながら身体を起こす。
視界に入ったのは──────校舎の窓から一斉にこちらを見ている全校生徒の姿だった。
「授業中にこんな場所で……バイクに乗って騒ぎを起こせばどうなるか分かってる筈だろう!?──────」
激昂した小泉の言葉が終わらないうちにドアの閉まる音とアクセル音が周囲に響いた。
「…………あ!?」
俺が小泉に気を取られている間に───────犯罪者二人組は脱兎の如く逃げ出し、その場から離脱した。
時既に遅し。
身動きの取れない俺はハイエースの後ろ姿を指を咥えて見送ることしか出来なかった。
「は!??意味わかんねぇんだけど!???」
俺も自分でもビックリするぐらいブチ切れていた。
「アイツら犯罪者なんだぜ!?今日だってウチの学校の女子を狙って─────」
俺はマジで切れすぎて血管まで破裂しそうになっていた。そんぐらいムカついてたんだ。
「もうちょとで完璧にブチのめせるトコだったのになんで邪魔すんだよ!??」
しかし、血液が沸騰したかのような俺とは対照的に小泉は冷淡にこう言ってのけた。
「それで?お前が独断で私的制裁を加えてどうなると言うんだ?」
「……どうなるって」
俺は一瞬言葉に詰まった。
「そんなん決まってるだろ!?徹底的にボコっとけばもうこの近辺で勝手なマネは出来ねぇだろうが!?」
「それが抜本的な解決になるのか?相手は車で移動してるんだ」
場所を少し移動して近隣のエリアで同じことを繰り返すだけじゃ無いのか、と小泉はどこまでも冷静に言い放った。
「は!?小学生がヤられてんだろ!?なんでそんな他人事みてぇな言い方なんだよ!?」
ほっとけって言うのかよ!?と言う俺の言葉に対し、小泉は頷いた。
「……そうだ」
「は!??」
小泉は静かに口を開き、淡々とこう言ってのけた。
「お前一人で何でも出来る気になってるのかもしれないが─────それは余計なお世話というものだ」
昨日の夕方の時点で─────今回の件について緊急職員会議が開かれている。近隣の小中学校・教育委員会とも連携して今後の方針も決まっているんだ、と小泉は冷静に言葉を続けた。
「我が校でも明日の6時限目に緊急全校生徒集会、夜からは緊急保護者会が行われる手筈になっているし、市の方からは臨時予算が承認されて市内全域の女子児童・女子生徒全員に防犯ブザーが配布される事が決定している」
「……は?」
意味がわからない。
学校側は既に実態を把握してたってのか?
「じゃあ何で今までアイツらが野放しになってたんだよ!?」
堪らず俺が叫ぶと、なおも小泉は静かにこう答えた。
「被害を受けたとされる女子児童とその保護者への聞き取りが困難で実態の把握が遅れたらしいが──────この件に関しては教員・保護者・スクールカウンセラー・教育委員会・警察ともきちんと水面下で連携を取って……再発防止策と被害児童への心のケアを進めている最中だ」
え?
俺の身体から血の気が一気に引くのを感じた。
それって──────
────────俺のやった事はただ悪戯に事態を引っ掻き回しただけって意味なのか?
さっきのは確実にバーンナックルだったな。