ep6『さよなら小泉先生』 ←↙↓↘→+B
昼間にバイク乗る事って殆ど無いからな。
中学校まで移動し、エンジンを切って塀の陰に隠れた。
息を殺して周囲を警戒する。
この位置からなら不審な車が近づけばすぐに対応出来る。
俺は煙草を吸いながら周囲を見張っていた。
どれくらい待っただろうか。
グラウンドでは一年女子が50m走を走っている様子が窺えた。
ウチの学校ってさ、ジャージの色で学年が分かるんだよな。
グリーン、紺、黒の三色があるんだ。
俺らの学年はグリーンで、一年は紺色、三年は黒に当たる。
今の三年が卒業すると次の新一年生には自動的に黒のジャージが割り当てられることになる。
そういう仕組みになってるから、遠くからでも学年が分かるんだよ。
ま、昔の時代─────校外学習とかで悪さしてた先輩たちが居た時にこの仕組みが導入されたらしいんだけど。
不意にグラウンドで歓声が上がる。
中でもずば抜けて脚の速い女子が注目を浴びていた。
確か、今年の一年女子にとんでもない実力の持ち主が居るって聞いた事がある。
デビュー戦の県大会でいきなりの準優勝だったとか。
ルックスもハイレベルだってんで他校から観に来る奴も何人か居たって話だが─────────
そこまで考えて、俺はふと一つの可能性に行き当たる。
奴ら、あらかじめ特定の可愛い女子に目星を付けて狙ってる────────?
その瞬間だった。
微かに車のエンジン音が聞こえた。
俺は咄嗟にバイクから離れ、電柱の陰に身を隠す。
見覚えのあるハイエース────────
校門の横、フェンス越しにその車はあった。
俺の居る位置から見るとグラウンドを挟んで丁度向かい側にその車は停まっていた。
体育の授業中の一年女子を見てやがんのか?
俺はチラリと校舎の屋上付近を見た。
恐らく、佐々木もこのハイエースを見てる筈だ。
だけど、動きを把握したところで──────佐々木には打つ手が無いんじゃないか?
ゆっくりとハイエースが徐行していくのが見えた。
ここの道路ってさ、学校横の通学路だろ?
だから『一歩通行』なんだよな。標識もちゃんと出てる。
このままハイエースが徐行しながら前進していくと──────丁度、俺が居る位置に到達するんだ。
一歩通行だから逆走は出来ない筈だ。
だとしたら────────
俺は深呼吸し、腹を括った。
ま、いくら可愛い女子が居るって言ってもさ、俺には縁が無いんだけどな。