ep6『さよなら小泉先生』 ↙→↘↓↙←↘+BC
嫌な予感がする。
ピントがボケた不鮮明な写真の中の二人の男──────
「……こいつら!」
武者小路雪平と鬼怒川豪翔。
以前に諸星キクコを車で軟禁し、暴行を加えた二人組だった。
一度時間を戻る事により、諸星キクコは難を逃れることが出来た筈だが─────
「……やっぱり知ってるのね。じゃあ話は早いわ」
佐々木は写真を胸ポケットに仕舞うと溜息を吐いた。
「ここ最近、近隣の中学での被害が相次いでいるらしくて─────」
「は!?」
佐々木の話の途中だったが、咄嗟に反応してしまう。
「コイツら……!!また性懲りも無く悪さしてやがったのか!?」
あの時────御月レイジと二人で襲撃し、ボコボコにした経緯はあるが──────
時間を戻ってしまったが為に、この二人組への制裁そのものが『無かったこと』になってしまっていたのか。
「……『性懲りも無く』って事は────あなたは既に把握してたって意味に捉えていいかしら」
ああ、と俺は頷いた。
「っつってもさ。あくまでも噂で聞いた事あるって程度なんだけどよ」
この世界線────時間を何度か戻っている俺とコイツらの間に面識はない。
そう、と呟きながら佐々木は双眼鏡で窓の外を見た。
「……とうとうこの中学の学区内でも数件、発生したらしいの」
尤も、“連れ去り未遂”に留まって居るのが不幸中の幸いとも言えるのだけれども、と佐々木は続けた。
それを聞いて俺はホッと胸を撫で下ろした。
「そうか。未遂か。それなら良かったじゃねぇか」
「……ところが、そうとも言えないのよね────」
佐々木は双眼鏡を握った手をダラリと落とし、険しい表情をを浮かべた。
「ウチの中学の生徒の場合は未遂に留まったのだけど………塾帰りの小学生が被害に遭ったらしいという話は聞いて居るわ」
「え!?」
「被害児童の在籍する小学校で極秘に緊急保護者会が開かれたから、まず間違いは無いと思う」
事件の性質から────教師や保護者は事実が拡散される事態を懸念してるみたいね、と佐々木は唇を噛んだ。
「被害を受けた女子児童の心情に配慮して、緘口令が敷かれている様子らしいの」
「被害って………未遂じゃ無いって事はつまり」
俺の背中に冷や汗が流れて行くのが分かった。心臓がバクバクと音を立てて鳴る。
「そう。あなたのその理解で正しいわ」
未遂ではない。
それは近隣の女子小学生が────────大の大人の男に2人がかりで暴行を受けたという事を意味していた。
「……!!」
小学生なんて、高学年だったとしても──────まだほんの子どもじゃねぇか。
俺は咄嗟に口元を抑えた。
猛烈な吐き気が俺を襲う。
自分で自分が解らない。
ただ、胃液が逆流してくる感触にのたうち回るしか出来ない。
俺は自分でも状況を理解できないまま、階段をダッシュで降りた。
階段下のすぐ隣、男子トイレに駆け込んだ俺は個室で嫌悪感と吐瀉物をぶち撒けた。
せっかくサンドイッチ貰ったのにな。