ep6『さよなら小泉先生』 REAL BOUT & NIGHTMARE
授業もそこそこ真面目に受けてねぇと小泉がうるさいからな。
小泉(13)ともすっかり打ち解け、一緒に居るのが当たり前のようになってきた頃だった。
充実している放課後とは裏腹に、俺の学校生活は退屈なものになっていた。
最近、大人の方の小泉とは全くと言っていいほど絡みがなかった。
美術準備室に行こうにも悉く追い返されてしまう。
(給食の残りのパンだけは確保して俺のスクールバッグに入れておいてはくれるのだが……)
ある日の昼休憩。
久しぶりの給食センターの休止日だった。
弁当を持って屋上に上がる階段へと向かう。
この場所は俺だけの定位置─────の筈だった。
そこに居た先客は、予想外の人物だった。
「あら。遅かったわね。先にお邪魔させて貰ってるわ」
サンドイッチを齧りながらそこに座っていたのは────────佐々木だった。
「え?お前どうしてここに?!」
俺は面食らった。
『保健室登校』がアイデンティティかつ最大のメリットみたいなもんなのになんでこんな場所に居るんだ?
「人に見られないように4時間目の授業中に移動して来たのよ」
佐々木は手にしたサンドイッチを頬張りながら窓の外を見る。てか、そのサンドイッチ美味そうだな。
「なんだ?俺と一緒に弁当食いたくなったってワケか?」
それ、俺の分もあるか?と冗談めかして言うと佐々木は紙袋を投げて寄越した。
「はい。口止め料よ。あなたならそう言うと思って二人分用意しておいたから」
「マジか」
佐々木んちってパン屋なんだよな。もちろん、味は天下一品だ。
俺は早速、紙袋を開けてサンドイッチに齧り付いた。
シャキシャキのレタスにチーズとハムのバランスが絶妙だった。
保冷バックに入れてあったんだろうか。ひんやりとした冷たさが食欲を増進させる。
「お前んちのパン、やっぱめっちゃ美味いな!」
サンドイッチを食う俺を横目に、佐々木は険しい表情を浮かべていた。
「そう。それは良かったわ」
ふと、俺は佐々木の左手に双眼鏡が握られていることに気付いた。
「それよりさ、ここで何してたんだ?」
何か調べてんのか、と訊く俺の言葉をかわすように佐々木は視線を泳がせた。
「……まあ、ちょっとね。裏取りはそこまで進んで無いけど──────」
そうだよな。よく考えりゃ佐々木が用も無しにこんなトコに居るはずないもんな。
「俺に出来ることってあるか?」
どんな案件なんだよ?と俺は慎重に佐々木に訊ねた。
少し躊躇するような素振りを見せた後、佐々木は重い口を開いた。
「……まあ、黙っていてもいずれあなたの耳にも入るでしょうから──────」
佐々木は胸ポケットから複数の隠し撮りと思われる写真を取り出し、俺の目の前に置く。
ピントのボケた薄暗い写真の中には────────見覚えのある男達の姿があった。
サンドイッチうめぇ。