ep6『さよなら小泉先生』 空想する秘密基地
勝手に部活結成ってなんか面白いよな。
小泉(中学生)の正体がなんであるか、というのは相変わらず不明なままだった。
バイトがない日の俺はコソコソと神社の裏手に侵入する。
例の小屋に行き、中学生の小泉と漫画を読んで菓子を食って過ごした。
スエカ婆ちゃんが持たせてくれるという菓子と飲み物類は毎回充実していたし、漫画のラインナップも豊富だったので飽きなかった。
お互いに読んだ漫画についての感想を話したり、小泉(中学生)が好きなキャラについて熱心に語るのに耳を傾けたりした。
この古井戸のある小さな小屋は、まるで俺達の為だけの秘密基地みたいに快適だった。
外観のボロさ具合から奇妙な場所だという印象しかなかったのだが、不思議と落ち着く空間だった。
小泉(中学生)がこの場所に居着いているのも納得出来るように思えた。
俺達は放課後から夜までずっと、他愛無いお喋りをしながらダラダラとそこで過ごした。
「ねぇ、佐藤くんはスタンド能力を一個貰えるとしたら何がいい?」
小泉(中学生)からの質問はいつも唐突だった。
「え?そりゃ、日常的に役に立つヤツがいいよなぁ。物や人を治せる能力の系統ってオールマイティじゃね?」
俺はじゃがりこを齧りながら適当に答えた。
「あー!わかる!佐藤くんってなんかそういうの似合いそう!」
小泉(中学生)はテンション高く頷く。
「あとさ、戦闘に特化すんだったら空間を削り取る能力って使い勝手良さそうだよなあ」
「それ、佐藤くんにピッタリじゃない?!使いこなせてそう!」
小泉(中学生)は漫画の話になるとイキイキしてくるんだよな。
ま、小泉らしいと言えばそうなんだが──────
「じゃあ小泉だったら何の能力が欲しいんだよ?」
俺がそう訊くと、小泉(中学生)は待ってましたと言わんばかりに食いついてきた。
「あ〜!訊かれると思ったんだよね!でもめっちゃ迷うし〜!」
いや、お前が訊いて来たから訊き返しただけなんだが。
「やっぱさ!漫画とか一瞬でシャーって描けるのって羨ましいよね!画力も半端無いしさ!」
小泉(中学生)は目をキラキラさせた様子でうっとりとする。
「いや、アイツの能力って人間を本にするヤツじゃね?」
漫画描ける能力って元からだろ、と俺が言うと小泉(中学生)は驚いたように俺を見る。
「……えっ!まあ、そう言われたらそうなんだけど────」
佐藤くんって思ったよりちゃんと読み込んでるんだね、と小泉(中学生)は意外そうな表情を浮かべた。
「いや、原作はあんま読んでなくてアニメの再放送を流し見してただけで──────」
そこで小泉(中学生)は怪訝そうにこう言った。
「ん?アニメってつい最近2部が終わったとこまでだよね?」
そんなに早く再放送とかあったっけ?と小泉(中学生)は不思議そうに呟く。
しまった、と俺は思った。
今俺達が話してた漫画は“4部”なんだ。
小泉(中学生)の居るのはおそらく2013年─────アニメで“4部”が放送されるのは数年、後になる。
まずい、話に整合性が取れてないじゃねぇか。
咄嗟に俺は適当な事を言って誤魔化した。
「……そうそう!2部まで録画したヤツ見せて貰ってさ!一気にハマって原作借りて読んだんだよ!」
そっかー!と小泉(中学生)は納得したように頷いた。
「佐藤くんも結構、いろんなジャンルにハマりやすいんだね!」
小泉(中学生)の表情はどことなく嬉しそうに見えた。
『同志を得た』ぐらいの感覚なんだろうか。
いずれにせよ、俺はすっかりこの小泉(中学生)に信用されたようだった。
二人ともガチ勢じゃなくてエンジョイ勢なんで許して欲しい。