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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㊵ポケットに手を入れて誤魔化せ

は?なにそれ?

今まで黙っててゴメンね、とマコトは小さく呟く。


潤んだ瞳はその感情を物語っていた。


 少年は自分の顔が真っ赤になって行くのを自覚した。


腰が抜けそう、という比喩表現を自分自身の身体で体験するとは思ってもみなかった。


バクバクしている心臓が自分の物では無いようにすら思えた。


何これ、嘘だろ、タチの悪い冗談かよ?


 俺、こいつと毎日遊んで騒いで酒飲んだり飯食ったりしてたけど? 


……は? 何これ?


……目の前に居るのは誰だ? 


……え? 


……絶対に怒んないから釣りなら釣りと早く言ってくれ頼む。


俺の思考回路が爆破されそうなんですが。いや既に粉々になってるだろうこれ。


俺らオ○ホで遊んだりしたし一緒にAV観たりもしたじゃん? 


この女、乳でけぇ! とか三人で盛り上がったのは何だったのか。


あーセックスしてぇ、と口癖のように一日に五十回ばかり垂れ流していた少年の事をマコトはどんな心境で見ていたと言うのだろうか。


どゆこと、と脳がぶっ壊れた少年はマコトの身体を横目でちらりと見た。


思えばいつもどんな時もマコトは大きめのゆったりしたパーカーを着てフードを深く被っていた。


ただの厨二病だと思っていたしマコトは実際そうだった。


 ふと少年はあの日マコトを全速力のフルスイングでぶん殴ってしまった事を思い出し、その体温が急降下していくのを感じた。


熱かった身体が一気に氷漬けになったようにさっと冷たくなったのが自分自身でもリアルタイムで実感出来た。


それは何よりも恐ろしかった。


「俺……あの時、お前の事殴っちまった……」


青ざめた顔で少年が泣き出しそうな表情を浮かべる。


タイムラグのある罪悪感がフルスイングで今度は少年自身を殴りに来たのだ。


マコトに酷い傷を負わせてしまった。


今はほぼ完治し、眼帯もそろそろ外してもいい時期には来ていたがマコトはずっとそれを身につけていた。


案外気に入っていたのかもしれないが。


 ううん、とマコトは首を振った。


「……ガックンが僕のことホントに親友って思ってくれてたからなんでしょ」


 だから嬉しかった、とマコトは柔らかな表情で小さく笑った。


 ねぇ、やっぱりまだ信じられないよね、とマコトは一人呟いた。


 マコトはゆっくりと少年に向かって一歩近付いた。


少年の身体がびくりと反応し硬直する。 


「……念のため確かめてみる……?」


 マコトはさらに一歩近付き、少年の肩に自分の額をくっ付けた。二人は正面から再びゼロ距離になる。


いつもの人工的な葡萄の香りと共にマコトの柔らかい感触がそのダボダボな大きめパーカーを貫通して少年の身体にダイレクトに伝わってくる。


「……っ!」


 咄嗟に身体を仰け反らせた少年はよろめきながらマコトから一歩下り、右手をポケットに入れながらくるりと背を向けた。


 ……ガックン? とマコトが少年の背中を不思議そうに見つめる。


 背中を向けたまま更に数歩前進し、マコトから距離を取った少年は上擦った声で思い出したように取り繕った。


「……あ、そうだ、喉、乾かね? 何か飲み物買って来るわ」


ちょっと待ってな、とだけ言い残した少年は遠くに見える自販機の灯りのある方向に向かって行った。


マコトは胸に手を当てると静かに深呼吸し、少年が戻って来るのを待った。


素数でも数えてろ

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