ep0. 「真夏の夜の爪」 ④プリズンブレイクとネオジオ
ネオジオポケットは白黒とカラーと2種類ある。
「白いセーラーに緑のリボンって何処の制服なんスか?」
双眼鏡で土手を眺めていた概史がぼんやり尋ねる。
部活帰りと思しき女学生が数人うっすらと視界に入る。
「白セーラーに緑リボンっつったらよ、この辺じゃ朝星しかないんじゃね?」
彼らの秘密基地、プレハブ小屋の外でしゃがんでゲームをしている少年は雑に答える。
「朝星って何処にあるんスか?」
「知らんけど中高一貫の女子校だろ?いいとこのお嬢さんしか居ねぇんじゃねぇの?」
「女子校って響きだけでもうヤバいっスよね。高嶺の花っス」
概史は感心したように呟く。
少年が興じているゲームは『リズム天国(GBA)』で使用ハードは『ゲームボーイミクロ(ファミコンバージョン)』である。
全くもって骨董品でしかないのであるが、経済的に余裕のない少年の為にレトロゲームコレクターであるフーミンが譲ってくれたものである。要するにお下がりである。
「普通のゲーム欲しいよなぁ……」
少年はしゃがんだまま地面に唾を吐き捨てる。
「まあまあ、おれなんて『ネオジオポケットカラー』なんスよ。お下がりで貰ったの」
概史はスケルトンカラーの携帯ゲーム機を出してみせる。
こちらは更に年代が遡ったかなりの骨董品である。
「先輩の持ってる奴、一周回って相当オシャレっスよ。レトロゲーブームじゃないスか。激レアっスよ」
「懐古趣味のオッサンどもにオシャレだのなんだの思われても嬉しくねーし。てか言うほどオシャレか?」
ジジイどものセンスなんざワカンねぇよ、と少年は呟きながら立ち上がる。
視界に黒いフードが入ってくる。
「……へへっ。ゴメン、怒ってる?」
背の高さほどある草を掻き分けていつもと違う方向から登場したのはマコトだった。
沈黙が三人の間を通過する。
「おっせーぞマコト」
短い沈黙を破ったのは少年だった。
「15日遅刻じゃねーの?何してたんだよ」
「……フフ、だからこうしてプリズンブレイクして来たんじゃないか」
概史はなんと声を掛けていいか解らずに戸惑っている。
「……ゴメン。連絡返せなくて」
マコトが概史の頭をくしゃくしゃにする。
「別に何とも思ってないっスよ、先輩」
概史が少しはにかむ。
フフ、と小さく笑ったマコトは手提げの紙袋を掲げた。
「……ケーキあるんだけど、食べない?」
「食べるっス!」
概史が元気よく返事する。
GBAのリズム天国は名作