ep6『夢千夜』 “壊れた夜” 第三夜
自販機で見かけるのってレッドブルよりモンエナの方が多いよな。
繋いだ手の温度が少しずつ上がっていくのがわかる。
いつもは冷たい小泉の体温。
─────俺の手から小泉の身体に血液が循環してる?
まだ何もしていないのに───────
俺と小泉はその体温と感情を共有しているかのように高ぶらせていたのかもしれない。
俺達は無言で歩いていた。
手を繋いで、飲み物の回し飲みもしてさ。
側から見たらまるで恋人同士のように見えるかもしれないな。
だけど今の俺達はそれどころじゃ無いんだ。
何しろ誰かに見付かったら全部終わりなんだから。
一刻も早く─────何とかしなきゃいけないんだ。
けどさ、俺から小泉になんて言えばいい?
そんな事を考えながら俺は、遥か昔の神々の存在に思いを馳せていた。
イザナギとイザナミ。
こんな話を聞いた事がある。
この国が、まだ出来る前─────さっきの二人の神が子どもを作って行くんだけどさ。
女であるイザナミが男であるイザナギに声を掛けてからの子作りで失敗したらしいんだよな。
で、次は順番を逆にした。
男のイザナギが女のイザナミに声を掛けて、それで今度は首尾良くコトを運べたって訳らしいんだが。
まあつまり──────
古代から「女から誘うと失敗フラグ」みたいなジンクスがあるらしいじゃねぇか。
多分、これって重要な事なんじゃないか?
俺はチラリと小泉を見た。
小泉からは言い出せない以上、俺の方から言わなきゃいけねぇよな。
それに。
小泉の返事が“拒否”では無かったにしても、だ。
恐らくだが─────自分からは『俺の提案には乗れない』んじゃないのか?
小泉のコトだ。
前々回に地下の座敷牢で大暴れした手前、こういう状況で素直に『はい、お願いします』って言えないんじゃないだろうか。
しかも。
小泉の部屋にあった未使用状態の生理用ケア用品──────名前は忘れたが……あれですら怖がってたんだ。
予想だが……頭ではこれが最善の手段だとは理解していても、そうすんなりと受け入れられないんじゃないか?
今まで俺は散々と小泉に迷惑を掛けて来た。その自覚は大いにある。
そうするとだな、俺が小泉にしてやれる事って言うのはさ──────
『やや強引に俺から押し切ったテイにする』───────それしかないように思うんだ。
俺が小泉に恩返し出来る唯一の機会みたいなものだからな。