ep5.5『TALKING ABOUT SEX(again)』 “キャベツ畑でつかまえて”
彼女とか出来るもんなら今すぐ欲しいわ。
「……多分そのうち……佐藤も気付くんじゃないのか?」
気付くって何をだよ。
「だといいんだけどさ」
俺は適当に相槌を打った。
御月って奴はどうして俺をそんなに持ち上げてくれるんだよ?
そんなに言われたら────────真に受けちまうじゃねぇか。
けど、ここまで来て俺は自分が何に対して悩んでるんだかわからなくなってしまった。
なんだっけ?
俺はどうして悩んで──────気持ち悪いって思っちまったんだっけ?
俺の身体──────自分で自分の身体が気持ち悪いって思ってたんだけど……
でも、言われてみれば男の俺の悩みなんてまだマシなんだよな。痛くねぇし出血もねぇし。
女子の方が遥かに大きなダメージを喰らいながら日常生活を送ってるんだもんな。
男子も女子も時間割は同じだろ?
体育の時間は別々に授業するとは言え──────
女子だけ4時間授業で終わりとかそんなん無ぇし。
みんな大出血と痛みに耐えながら日常生活送ってるんだよな……
そう考えるとまた別の疑問が浮かび上がる。
「なあ、なんで俺らってこんなしんどい思いをして身体の機能を維持しなきゃなんねぇんだろうなあ?」
「……機能って?」
御月がスプーンを咥えながら聞き返す。
「生殖機能だよ。もうさ、男子も女子も大変なんならさ、こんな機能無かったらいいのに」
「……それだと人類は滅亡するんじゃないか?」
御月は驚いたように言った。
「なんかさ、こんな厄介な事しなくても卵とかで産まれたらいいんじゃね?鮭とかみたいにさ」
「……鮭は産卵後に死んでしまうんだが」
御月は戸惑いながら呟く。
「は!?鮭って子ども産んだら死ぬの!?」
初耳だ。
「……オスメス共に産卵後に死ぬとはよく聞くよな」
御月は頷いた。
「は!?じゃあ鮭の一生ってなんなんだよ?!まるで子ども産んだら用済みみてぇじゃねぇか!?」
意味がわからなかった。
じゃあ産卵しないほうがいいんじゃね?だって死ぬんだぜ?
「……鮭はまだマシな方じゃないか?カマキリのオスなんか交尾中に殺されて食われるんだぞ?」
「は!?殺されんの!?」
俺はもっと意味がわからなくなった。
「……交尾後に生きてるだけ人間はまだマシなんじゃないかって思うんだが」
御月は何か考え込むようにして言った。
いやいやいや……
ヘビー過ぎんだろ。
「ん?それじゃ何か?御月はもう交尾したみてぇな口ぶりじゃねぇか」
ビクリとした御月は手からスプーンを落とした。
「……っ!いや、その、まだそこまではギリギリやっていないと言うか」
御月は慌てて首を振った。
ギリギリってなんだよ。挿入はしてないって意味なのか?
御月の顔はさらに真っ赤になっている。純情か。
あまり揶揄うのも悪い気がしたので俺は話題を変えることにした。
「よくわかんねぇな。こういうのって──────」
なんでこんな仕様になってんだろうな。設計ミスだろ、と俺は呟いた。
「もういっそ何もかもキャベツ畑で穫れたらいいのにな。鮭もカマキリも人間もさ」
「……それはそれで大混乱になりそうだ」
御月が少し笑った。
「……キャベツを収穫しようとして鮭や赤ん坊が出て来たりしたら大変だぞ?」
確かにな。
一面に広がるキャベツ畑。
キャベツからはバブバブと赤ん坊が這い出て来る。
ハイハイして崖の下に落っこちそうになる赤ん坊を俺は捕まえるんだ。
キャベツ畑の捕まえ役。
────そんな存在になれたらどんなにいいだろう。
当然ながら無農薬だからな。