ep5.5『TALKING ABOUT SEX(again)』 裸のディナー
寺の雰囲気って落ち着く。
水子供養寺。
御月はここの一人息子だ。
“初めて”御月の家を訪れた俺は御月の両親─────年配の養父母に手厚い歓迎を受けた。
出された夕飯はすき焼きと天ぷらだった。
田舎の老人ってのは、何かあれば天ぷらを揚げるんだよな。
多分、最大級のもてなしのメニューが天ぷらなんだろうな。
「俺が友人を連れて来ることなんて滅多にないから……父さんと母さんも喜んでるんだ」
御月は少し照れたように笑った。
「頂きます」
俺は手を合わせて遠慮なく出された食事を食べた。
おかわりも2回した。
こんな食事にありつけるのは何ヶ月ぶりだろう?
時間を何度も戻っているので感覚がもうわからなくなってる。
だってすき焼きだぜ?牛肉だぜ?
値引シールが貼られた見切り品の輸入豚バラ肉を小分けして冷凍してチマチマ食うのが精一杯の俺にとって、別次元の食卓だった。
ガツガツ食う俺を御月の養父母はニコニコとして見つめている。
心なしか御月も微笑んでいるように思えた。
食後は勧められるまま、俺は御月と一緒に風呂に入った。
相変わらずデカい風呂だ。
ちょっとした修学旅行みたいだよな。
俺は湯船に浸かりながら天井を見つめた。
節約の為に家ではシャワーしか浴びないからな。
湯船でゆっくり身体を温める機会なんてあんまりないし。
(だから前回つい小泉のところでも長風呂になっちまったんだが……)
「……ちゃんと食べられたみたいで安心した」
不意に御月が呟いた。
「え?」
「……もしかして給食もあんまり食べてなかったんじゃないのか?」
俺は黙った。
御月はクラスが違うのになんで知ってるんだろう。
「……青い顔をした佐藤を廊下で見かけて─────ずっと気になってたんだ」
トイレで何回か吐いてたんじゃないのか、と御月は静かに言った。
なんで知ってるんだろう。
俺は話をどう切り出すべきか─────なんと言って打ち明ければいいか迷っていた。
呪いなんて言えないし、童貞を捨てたら時間を戻るなんてクレイジーな事はもっと言えない。
御月が俺のことを心配するような表情を浮かべているのが見て取れた。
「そのさ、うまく言えないんだけど─────悩んでることがあってさ」
御月は無言で頷いた。
御月は多分────例えどんな内容であったとしても俺の話を最後まで真剣に聞いてくれるだろう。
「端的に言えば……」
一呼吸置いて俺は続けた。
「俺、セックスとかそういうのがマジで怖くなったんだ」
牛肉とか異次元の食材だろ。