ep0. 「真夏の夜の爪」 ㊲拳銃と密告、売春の濡れ衣
急すぎる
僕ね、僕……とマコトは言葉を詰まらせる。
「……僕、あのガスガン、知らない大人に貰ったんだ……SNSのDMでやり取りして……」
あの日少年が力任せに川にブン投げた違法改造のガスガン。
「知らねぇ大人に貰ったって……ああいうのタダでくれるモンなンか?」
少年には値段や相場は想像すら付かなかったが何となく高そうな雰囲気は感じ取れた。
「……お金は要らないよって……だから僕、親切な人なのかなって思ってて……駅前で待ち合わせて向こうは県外から来たって言ってて」
直接取引。随分と危なそうな橋を渡ったモンだなと少年は思った。
嫌な予感がした。
「……そしたらその人、一枚だけ写真を撮らせてって言って来てさ。銃を構えたポーズで撮らせてって」
少年の背中に嫌な汗が流れた。
「……だから僕、写真くらいならいいかなって思って……強い威力の違法ガスガンなんて本物みたいな感じがしてさ……それがあったら強くなれるような気がしちゃってて……勘違いも甚だしいんだけど……」
どうしてもその銃が欲しかったんだ、その時は、とマコトは両手で顔を覆った。
相手の指定通りに学校の制服で待ち合わせ場所に向かい、カラオケボックスで相手の言うまま銃を構えた写真を撮らせた、と言うマコトの話を聞いた少年は自分の体温が下がっていくのを感じた。
「……最初は有頂天だった。簡単に殺傷能力のある銃を手に入れて、自分が強くなった気がしたんだ」
声を小さく震わせた後、けど、とマコトは続けた。
「……ガックンに殴られて目が醒めて、なんか違うなって思って……実際僕は間違ってたんだけどさ…… SNSにログインしなくなったんだけど……その人だんだん言動がおかしくなっていったんだ。女叩きみたいな事ばっかり言うようになってってた。二五過ぎた女は産業廃棄物とかBBAに価値なしとか」
僕、怖くなって、とマコトは目をぎゅっと瞑った。
「……そう言う変なDMが立て続けに来てホントに怖くなってその人をブロックしてアカウント消したんだ」
アカウントを消した、というマコトの言葉に少年は少し安堵した。
「……そしたら……ブロックされた事に腹を立てたその人、学校に僕の写真を送って来たんだ……〝この子ネットでパパ活してますよ〟って添えてさ……」
少年の身体からサッと血の気が引いた。
「は!? どう言う事だよ!? お前そんな事やって無ぇだろうが!?」
マコトは頭を抱えて首を振った。
「……してない、僕はそんな事してない、でも……!」
対価として違法改造のガスガンを受け取ってしまった事は紛れもない事実だった。
「……その前に顔に青タン作って登校しちゃってるし、しかもホワイトブリーチのこの髪のこともあって」
マコトの銀色の髪が揺れる。
「……三アウトなんだよ」
どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ