ep5. 『死と処女(おとめ)』 対峙
こんなのは初めてだ。
突然、目の前に現れた男。
銀縁の眼鏡の奥の涼やかな目元が印象的だ。
白い肌とサラサラとした艶やかな黒髪も目を引く。
とんでもなく整った容姿。
煙草を奪われた俺はポカンと口を開けたまま、ソイツのことを凝視しちまっていた。
我ながらマヌケだよな。
「岬先輩!」
校舎から一年生らしき小僧が駆け寄って来る。
「ダメですよ岬先輩!得体の知れない不良の相手なんかしちゃ……」
おいおいおい、得体の知れない不良ってなんだよ。
「─────こういったことも生徒会長の僕の役目だと思っているからね」
君は先に教室に戻っていなよ、とその男は小僧に目配せをする。
コクンと小僧は頷くと、また小走りで校舎に戻っていった。
「岬?」
ここでようやく俺はあることに気付いた。
岬という名の容姿端麗な男子。
─────もしかしてコイツなのか?
「アンタが岬京矢か?」
だとしたら?と男は冷たい視線を俺に向けた。
ビンゴか。
しかも、生徒会長もやってるなんて聞いてなかったぜ?
いくらなんでも設定盛りすぎって感じじゃねぇか。
けどさ、現実にこういうヤツって居るんだよな。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、おまけに生徒会長ときたもんだ。
世の中って不公平だよな、クソが!
全部が俺と真逆じゃねぇか。
「夢野くるみの件で聞きたいことがある。ここじゃ目立つからちょっと顔貸してくんね?」
ややムカつきながら夢野の名前を出すと、岬は改めて俺を見た。
「─────校舎付近を不審な他校の生徒が徘徊していると聞いて来てみれば」
これも『彼女』の差し金なのかい?と岬はオーバーに肩をすくめてみせた。
「へぇ、西中の生徒会長は随分と仕事熱心なんだな」
ご苦労なことで、と俺が言うと岬は鼻で笑うように冷淡に答えた。
「その通り。僕は多忙なんでね。話なら手短にしてくれないか?」
今ここで、と岬は吐き捨てるように言った。
どうやら岬は俺に付き合って延々と話をする気は無さそうだった。
まあ、そうだよな。お互い初対面だし急に来られてもそうなるよな。
単刀直入に言うけど、と俺は前置きしてから口を開いた。
「夢野くるみが妊娠しているのは知ってるよな?これからどうするつもりなんだ?」
岬の反応は意外なものだった。
「何を言い出すのかと思えば─────そんな事かい?」
わざわざ出向いてまで、そちらこそ御苦労な事じゃないか、と岬は冷たく言い放った。
「─────君“も”彼女に騙されているんだよ。彼女は嘘吐きだからね」
君「も」?