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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㊱軽蔑、別れの挨拶

嘘だろ。

マコトから電話があったのはその二日後だった。


酒を飲んで二人で号泣したあの日からマコトは少年宅には来なかった。


ちょっと出て来れない? というマコトの声は落ち着いているようでどこか上の空だったように少年は感じた。


待ってるから、という声と共に電話は切れ少年はすぐに秘密基地付近のいつもの河川敷に向かった。


 二〇時過ぎの河川敷にあの時と同じように佇むマコトはいつもとは違う表情をしているように見えた。


よぅ、どしたンだよ、と声を掛ける少年の姿を硬い表情で見つめていたマコトは言葉を発するタイミングを見計らっているかのように静かに瞬きする。


マサムネがお前が来なくて寂しいってよ、と少年は冗談めかして言った。


しかし寂しがっていたのはマサムネだけではない事を二人は暗黙の共通認識のように理解していた。


僕もだよ、という言葉を押し殺してマコトは深呼吸した。


パーカーのフードを浅く被ったマコトは少年を真っ直ぐに見つめてこう言った。


「……僕、ガックンにお別れを言いに来たんだ」


二人の間を晩夏の夜のやや冷たい風が吹き抜けた。


は? 何だよお別れって? 少年は意味が判らず聞き返す。


ごめん、と一言呟いたマコトは深く息を吐き出してしばらく間を置いた。


少年はマコトの顔を見た。


今まで見たことのない表情だった。


全てを悟って受け入れたかのような、悲しみに満ちた表情。


どういうことだよ? と少年は一歩マコトに近付く。


マコトの体温といつもの人工的な葡萄の匂いが少年にも感じられた。


……ああ、僕は本当に馬鹿だった。結局全部無くしちゃった、とマコトは小さく呟いた。


泣き尽くして涙も出ないような絶望に満ちた目でマコトは空を仰ぎ見る。


少年は立ち尽くしたままマコトの言葉をただ待っていた。


「……僕ね、二学期から姉妹校に転校する事になった」


精一杯振り絞るような震える声。少年はマコトの姿を凝視する。


え、嘘だろ、どこまで行くンだよ、と少年は咄嗟に返す。


「……全寮制の私立の学校で」


マコトは途中で言葉を詰まらせた。


県外にある、とマコトはここから新幹線で五時間ほどの地方都市の地名を示した。


空港のない片田舎の地域に住む中学生にとっては海外にも等しい距離だった。


は? そんな、何でだよ!? 少年は声を荒げた。


「……僕、もうダメなんだ……学校に居られなくなっちゃった」


マコトは目を見開いたまま涙を零した。


僕は本当に馬鹿だ、と呟きしゃがみ込む。


少年は隣に座りマコトの肩を抱いた。


何があったンだよ、とマコトの顔を覗き込む。


「……これ、話したらガックンは僕のこと軽蔑すると思う」


 でも、とマコトは続けた。


「……僕はガックンに軽蔑されなきゃいけないんだ……ううん、そうして欲しい」


 何言ってンだよ、絶対しねぇよ、と少年はマコトの肩を揺さぶる。


どうして。

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