ep5. 『死と処女(おとめ)』 夜のエージェントとショットグラス
なんやかんやでバイトは休めないからな。
その後。
翌日の日曜は一日中バイトだった。
俺も働かないと食えないからな。死活問題だ。
近所の工場の配送部門、荷物の積み込み補助のバイトはガチめの肉体労働だった。
バイトでクタクタだった俺は、思考をうまく纏められずにいた。
あの後特に進展もなく、俺としては少し迷っていたのかもしれない。
この件の最終局面であるとも言える岬京矢との対峙─────
これは避けては通れないだろう。
だけど。
岬と話したところで─────
何かが解決するだろうか?
いや。
俺は首を振った。
俺が考えても仕方がないことだ。
どちらの選択をするにせよ─────
岬には岬の考えがあるのかもしれない。
そうだとすると、俺が何か出来るのはここまでだろう。
後は夢野の家族と岬の家族が話し合って決めることだ。
どう転んでも中学生だけで何とか出来るっていうレベルを越えてるからな。
しかも小泉ですらどうしたらいいかお手上げって雰囲気だったし……
その上、小泉まで様子がおかしくなっちまってたじゃねぇか。
どうすんだよこれ?
とにかく、だ。
明日にでも西中の岬に話を聞きに行って、後は任せよう。
俺が出来るのはここまでだろうな。
冷蔵庫から麦茶のボトルを出し、グラスに注ぐ。
バイトから戻り、自宅の居間に転がっていた時だった。
不意に俺のスマホが鳴った。
珍しいこともあるものだ。
画面に表示されたのは見知らぬ番号だった。
「は?誰だ?」
通話ボタンをタップし、電話に出る。
電話越しに聞こえてきたのは意外な人物の声だった。
『わたしだけど』
聞き覚えのある、自信に満ちた声。
「……ん?お前、佐々木か?」
どっから俺の番号を調べて来やがったんだ?
「またハッキングしたのか?」
「失礼ね。ちゃんと真っ当な手段で入手しただけよ?」
俺の問いに対し、佐々木はさも心外だといった風にオーバーに言ってのけた。
俺はなんとなくピンと来た。
佐々木が自信満々な時ってさ、大抵何か掴んでるんだよな。
こんな時間─────
日曜の夜に電話なんてして来るって事はさ。
恐らく、よっぽどの“何か”を掴んだんだろう。
しかも佐々木のことだ。
俺に連絡を寄越してきた時点で─────多分、裏取りまで完了してる筈だ。
グラスの麦茶を飲み干し、一呼吸置いた俺は佐々木に問いかけた。
「……で?お前は何を掴んだんだ?」
コイツの情報網ってマジでガチなんだよな。




