ep5. 『死と処女(おとめ)』 小さな従者と神託
誰だろ?
険しい表情で俺を睨みつけていたのは、小泉の甥っ子のシンジだった。
相変わらず巫女の赤い袴を身につけている。
いっつも思ってたんだけどさ、神社に居る男って水色とかの袴なんじゃねぇの?
なんで女子用の袴?
「あ?何か用か?」
俺が聞き返すとシンジはますます表情を険しくさせた。
「何しにここへ来たんだ?」
なんか知らねぇけどコイツ、怒ってんのか?
「何って……センセェにちょっと話があっただけだけど?」
俺がそう答えると、シンジは手にした竹箒を握る手に力を込めた。
「用が済んだならさっさと帰れ!」
は?
なにキレ散らかしてんのこの小僧?
「ちょっと意味わかんねぇんだけど」
なんなんお前?と俺が軽めにメンチを切ると、シンジはなおもこちらを睨みつけて来る。
「最近、鏡花姉さんの様子がおかしいと思ったけど─────」
お前がトラブルばっかり起こしてるんだろう!?とシンジは俺に食って掛かるような勢いを見せた。
威勢がいい小僧だなぁ、と思いつつも俺は首をすくめた。
「俺じゃないっつぅの。同じクラスの女子がちょっと問題起こしててさ。それで今日は様子を報告に来てたんだよ」
確かに、いつもは俺が面倒を掛けてるかもしれねぇけど─────
今回は俺じゃないんだ。濡れ衣もいいとこだろ?
そこんとこはハッキリさせときたかった俺は、シンジに向かってそう答えた。
「お前じゃないって言うのか?」
シンジは信じられないと言った様子で俺を見る。
まあそうだよな。
今回だけが特殊な事情な訳で。
いつもは俺がトラブルの原因だもんな。
ともかく、とシンジは続けた。
「用が無いんならここには来るな」
おいおいおい、随分とご挨拶じゃねぇか。
「神頼みもダメだって言うのか?」
神社なのに出禁とかある訳かよ?
っていうか、神社が参拝客を選り好みするとか普通やらなくね?
「お前にここをウロチョロされたら迷惑なんだよ!」
シンジはキッパリと言い放った。
え?そこまで嫌われてるってどういうこと?
まさかとは思うけど、呪いの事とかバレてんの?
っていうか、コイツに神通力や霊感があって俺のことが判ってるとか?
俺が黙っていると、シンジは更に言葉を続けた。
「お前は鏡花姉さんにとって悪影響だ。出来れば学校でも近づくな」
は?
俺ってそこまで嫌われてんの?
「大体、昔から鏡花姉さんはちょっと不安定なんだ。黙って姿を消すことも度々あって─────」
そこまで言いかけてシンジはハッとした様子で口を押さえた。
「姿を消す?」
小泉がか?
不安定?
推しだのアニメ絡みの時のテンションは確かに不安定でハイな時もあるけど─────
俺が何か聞き返そうとすると、シンジは俺の背中を押した。
「いいから!とにかくとっとと出てってくれ!」
はいはい。わかったわかった、と言いながら俺はシンジに押されて神社を後にした。
結局、何が何だか意味がわからないままだったが─────
今度からここに来る時はなるべく目立たないようにしないとな、と思いつつ俺は神社を後にした。
随分と嫌われたもんだな。