ep5. 『死と処女(おとめ)』 残酷な結末
なんでこんなことになったんだろう。
なんだかメチャクチャ泣きそうになった。
ただひたすら怖かった。
母親の胎内で眠っている赤ん坊。
赤ん坊に意識はあるんだろうか?
まだ外の声は聞こえてないかもしれない。
赤ん坊は夢を見るだろうか?
もうすぐ会える母親や父親。
まだ見ぬ外の世界に生まれることを夢見ながら、暖かい子宮で眠っているんだろう。
母親に抱きしめられ、父親や周囲に祝福されることを疑ってもいない赤ん坊を─────
母親の子宮から引き摺り出し、その息の根を止める。
絶命する瞬間、赤ん坊は何を思うのだろう─────
母親に助けを乞うのだろうか
赤ん坊を殺す決断をしたのが母親本人だったとしても─────
気付けば俺は少し泣いていたのかもしれない。
「……佐藤?」
どうかしたか、と小泉が怪訝そうな表情を浮かべる。
「なんでもねぇ」
そう言って俺は誤魔化した。
そうか、と小泉は頷き、話を続けた。
「さっき仮定した7月25日ってのは適当だからな。もしも夢野の最終月経日が6月下旬だった場合─────」
9月下旬の現在、妊娠12週を超えている可能性もある、と小泉はカレンダーに赤ペンでグルグルと印を付ける。
「12週を越えると……どうなるんだ?」
小泉は俯いた。
「さっき言った中期中絶……分娩と同じ方法になってしまう」
初期中絶ならまだ日帰り出来る手術になるんだが、と小泉は重々しく答えた。
「分娩……夢野がか?」
俺と同じクラスの女子。
同い年の女子が分娩─────
俺は夢野の顔を思い浮かべた。
お姫様が主役のアニメが大好きな……どちらかというと実年齢より幼いくらいの印象の女子。
夢野は大量の血を流し、赤ん坊も死ぬ。
ビルから飛び降りなかったとしても─────
夢野の進む先には、残酷すぎる結末しか無いっていうのか?
こんなの、悲し過ぎる。




