ep5. 『死と処女(おとめ)』 パパと事情
慎重に聞かないとな……
どうすれば夢野を傷付けずに話を聞ける?
俺は思案しながらも床に視線を落とした。
先ほど脱がせた濡れたワンピースが無造作に転がっている。
まあ、俺が床に投げたんだけど。
さっきはテンパっててそれどころじゃなかったからな。
俺はワンピースを拾うと夢野に声を掛けた。
「なあ、この濡れた服……床に置いとくと良くないから、洗濯機に入れといていいか?」
それとも手洗いなのか?これって高いんだろう?と俺はごく自然に─────夢野に問いかけた。
「……ゴメンね。迷惑掛けて」
この生地のは手洗いしてるから、脱衣所のカゴに入れといてくれたら助かる、と夢野は済まなさそうに呟いた。
なるほど、やっぱ高い服は手洗いなんだな、と俺は頷き、脱衣所に移動した。
夢野を部屋に移動させる際に使ったバスタオル類も回収し、これらも脱衣所に持っていく。
どれを洗濯機に入れてどれを手洗いするのかは判らないが、俺があまりベタベタ触るのは良くないだろう。
全部まとめて脱衣カゴに入れた。
下着類は触るのを躊躇したが、床に晒しておく訳には行かないのでバスタオルに包んでこれもカゴに入れた。
部屋に戻り、俺はなんでもない風を装って夢野に話しかける。
「高そうな服だから手洗いだとは思ったけど……夢野は家族の分の洗濯もやってるのか?」
頑張ってるんだなぁ、と俺はなるべく夢野の心情に寄り添うように言葉を掛けた。
「そんなこと、ないよ……」
夢野の声のトーンが少し変わった事を俺は聞き逃さなかった。
この路線から少しずつ話を聞き出すしかない。
「けど、夢野の着てる服って全部可愛いのばっかりなんだな。こういうのって特別な場所で買うのか?」
ここらの片田舎じゃこんな凝った服、何処にも売ってないしな、と俺は平静を装って質問する。
「これね……全部パパが送ってくれてるの」
夢野は少し誇らしげに答えた。
「パパ?」
一瞬、俺は硬直する。
どっちの意味?
父ちゃんてこと?
それとも別の意味か?
いや。
俺は首を振った。
普通の父ちゃんがフルセットで何十万もする服なんて中学生の娘に買い与えるか?
しかも娘は家事全般を一人でこなし、節約しながら低予算で三食作ってたりするのに?
優先順位がおかしいだろう。
何十万も使えるなら、お手伝いさんやハウスキーパーを雇うなり便利家電を買うなりするのが優先じゃないのか?
食事は宅食的な物を利用すれば夢野の負担は減るんだし─────
何かがおかしい。
俺の知らない夢野の事情がまだあるって事なのか?
パパってそういう意味か……?




