ep5. 『死と処女(おとめ)』 呪いの範囲と虚偽の兄
女子との会話って難しいよな。
俺はなんと水森に声を掛けたらいいんだろう。
なんて言ったらいいのか分からず、俺と水森は黙ったままベンチに座っていた。
「……なあ、どういう成り行きでこんな事になったんだ?」
そんなに仲が良かったのにどうして、と思い切って口を開いた俺に対し水森は小さく呟いた。
「そうね。あたしも知りたいわ……」
なんでこんな事になっちゃったのかな、と水森は目を伏せた。
俺はまた黙った。
水森は今、自分の中で言葉や気持ちを整理しているのかもしれない。
急かしたり質問攻めにするより、落ち着いて話せるタイミングを待ってやった方がいいんじゃないだろうか。
そんな気がしたので俺はしばらく黙ったまま、ぼんやりと廃駅のホームのベンチから見える景色を眺めた。
草は背の高さまで伸び、駅名の看板は錆び付いて解読不能になっていた。
この駅も昔は賑やかだったんだろうな。
こんな寂れた地域になるなんて昔は想像も付かなかったんだろう。
俺たちが思う以上のスピードでこの国は静かに崩壊を進行させて行ってる気がする。
だけど。
この呪いを解かない限りは俺は永遠に繰り返す時間の流れの中に居るんだ。
呪い。
この呪いに関しては今回、夢野くるみも無関係じゃないんだ。
彼女の飛び降りをキッカケに俺は時間を戻った。
だとしたら。
俺の周囲ではこれからも『俺に時間を戻らせるための事件』が起きるって事だよな?
呪いによって周囲の人間にも影響がある?
俺に時間を戻らせる為に─────
そう仕向けられる人間が出てくるのか?
俺のせいで、これからも誰かが犠牲になる─────?
いや。
俺は首を振った。
因果関係は逆かもしれない。
俺の周囲にそういう人間が引き寄せられてくる?
でもどっちも同じだ。
俺は目の前のやつを助けてやりたい。
相手が誰であっても。
俺は夢野くるみが再び死に向かうのを止められるだろうか。
でもやらなきゃなんねぇよな。そうだろ?
俺は一人で考えを巡らせる。
不意に水森が口を開く。
「……7月の上旬だったかしら。多分、あの日がターニングポイントになった気がするの」
それまでは今まで通り、仲良くやってたと思うから、と水森が呟いた。
「……あの日って?」
俺は慎重に聞き返した。
「三者面談があった日って覚えてる?授業は午前中だけで終わったでしょう?」
三者面談。
「ああ、そんな行事もあったよな」
親の居ない俺は佑ニーサンに一芝居打ってもらって『兄』ってテイで学校に来てもらったんだっけ。
今思えばよく乗り切ったよな。信じられねぇ。
「……あの日は給食が無くて─────だからあたし、食券を使うつもりで持って来てたの。部活があるしね」
食券。
水森からそのワードが飛び出したって事は、いよいよ事件の真相が解明されるって事なのか?
佑ニーサンもよく引き受けてくれたよなあ?