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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㉘少年達はガールズトークの内容を知らない

多分知らない方がいい。

マコトは撫子に話を聞こうとしたことを後悔した。


前回も訳が解らなかったのだから今回も訳が解らなくても当然なのだ。


だが、マコトは質問を止めることができなかった。


マコトの胸中の得体の知れない物について語ることが出来る唯一の人物。


聞かなくても後悔する気がした。


「もうセックスしないんだったら普段は二人でどうしてるの?」


別に何も、と撫子は無表情でシャボン玉を量産していく。


「キスとかはしないの?」


不意に撫子が咳き込んだ。


咽せたせいか顔は赤く、撫子はシャボン玉のボトルを地面におくとキッとマコトを鋭い視線で見つめた。


「……いくら先輩でも失礼」


ええ、とマコトは戸惑いながら言葉を探す。


いやさっきまで失礼の極みみたいな質問してたんだけどそっちはいいの?という台詞を飲み込んでゴメンね、と小さく謝った。


じゃあこいつらキスはずっとしてるんだな、とマコトはふと思い少し苛立ちを覚えた。


 先輩、本当は好きな人がいるんでしょう、と頬を赤くした撫子が呟く。だから知りたいんでしょう、と。


一瞬ビクッと反応したマコトは撫子から視線を逸らす。


なんでそう思うの、とマコトは質問を質問で返す。


「……そういう匂いがする」


マコトは何もかも見透かされた気分になってしばらく黙り込んだ。


チョコレート全部ご馳走になったから、と撫子がマコトのぶかぶかのパーカーの袖を引っ張る。


「……今日だけ、なんでも聞いてもいい。特別」


先輩の恋愛相談に乗ってくれようとしている撫子なりの気遣いであろうか。


マコトは撫子がますますよく解らなくなった。


撫子の地雷がそもそも不明過ぎた。


ええと、とマコトは言葉を濁す。


なんで僕に好きな人が居るってわかったの。匂いってなに?そんなにセックスって淡々とするもの?キスする時は目を閉じるの?概史のことはどれくらい好き?あれからキミの世界は変わったの?


 色々と聞きたい事はあったがどれも聞けずにいた。


遠くで概史と少年がワアワアと騒いでいるのが見えた。


あの概史とセックスしたんだこの娘。


あの概史と?あいつ銀のエンゼルもまだ2枚しか集めてないのに?雑魚だよ?僕より背が低いしそもそも小六だしなんで先に童貞捨ててるの?わさび入りの寿司が食べられないくせに?小二までおねしょしてた分際で?まだ完全に子どもじゃないか。なんなんだこいつら訳わかんないんですが。


マコトは言い表せないような焦燥感に駆られた。


「ねえ、ホントは概史の事好きじゃないんでしょ?」


マコトは思ってもないことを口にした。


ただ利害関係で一緒に居るだけなんじゃない、と。


……そうかもね、と撫子は頷いた。


いやそこ肯定するんかい、とマコトは少し拍子抜けした。


どんな答えが返って来るのを期待していたと言うのか。


ただ、と撫子は言葉を続けた。


「心肺は停止しそうになる。流川(ながれかわ)君と一緒に居ると」


いやそれ死んでない?とマコトは思わず口にする。


……わからない。でも生きてる、と撫子は遠くを見る。


視線のその先には概史の姿があったのをマコトも確認した。


「……後ろからぎゅっと強く抱きしめられて、ゆっくりキスされたら頭の中が真っ白になる」


撫子は概史から視線を逸らさずに淡々と呟く。


「……身体が熱くなって溶けてしまいそうになる。心臓は止まって二人が混ざり合って自分の境目がわからなくなる」


マコトは撫子の瞳に小さく映っている概史の姿を見た。


「時間が止まればいいのにって思う。このまま一生過ごせたらいいのにって」



自分自身の一切合切が肯定され受け入れられる。何も拒絶されない。目の前にある体温。ただそれだけの簡単な作業。他の何にも変え難い行為。



急に官能的な表現するの辞めてもらっていいですかね、とマコトは思った。


ああ神様、世界中のリア充どもを爆発させて下さい、とマコトは天を仰いで神に祈る。


それって好きってことじゃん、とマコトは小さく悪態を吐く。


「……そうかもね」


頬を赤くして呟く撫子の姿はマコトにはとても眩しく思えた。


不意打ちで惚気ぶっ込んで来るのやめて。致命傷のダメージ喰らうから。


でも大袈裟でしょ、心肺停止は言い過ぎだよ、とマコトは少し笑いながら視線を遠くの概史に移す。


視線に気付いた概史がこちらに歩いて来る。

いつだってそうだ、知らない方がいい事は沢山ある。

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