ep5. 『死と処女(おとめ)』 職員会議と事なかれ主義
小学校から中学校にある程度の情報って渡ってるんだな。
小泉の話。
これは何を意味するのだろうか。
小学校時代からもトラブルがあった?
中学でもそれが継続している?
小泉は少し考え込むような素振りを見せてこう言った。
「今の所は具体的な事はなんとも言えないが────」
佐藤、お前の方でも何か判ったら教えてほしい、と小泉は俺をまっすぐ見た。
「ああ」
俺は頷いた。
それとは別に、俺は大事な事を小泉に聞くつもりだった。
「なあセンセェ、さっきも言った通り3年女子が夢野から5000円カツアゲした件なんだけど……」
これってセンセェの権限でなんとかならんのか?3年女子をシメるとかさ、と俺は改めて小泉に向き直った。
夢野が5000円という大金(金券ではあるが、額には変わりない)を盗られるという大事件があったって言うのに、親や教師には報告していない。
それどころか夢野は俺にすら話してはくれていない。
何故だ?
何か引っかかるものを感じる。
教師にチクれば一発退場モンだろ、こんなの。
例の3年女子ってのが何人居るかもわかんねぇし、どんなキャラでどんな立ち位置のヤツかもわかんねぇ。
だけど、3年がこの時期にカツアゲってのは明るみに出たら分が悪いよな。
しかも、万が一にも夢野の保護者が学校や教師をすっ飛ばして警察に被害届でも出そうモンならタダじゃ済まねぇ。
学校全体で大騒ぎになる事は必至だった。
「そうだな。これは私の一存では決められないし、表沙汰になれば二年の学年主任・三年の学年主任・生徒指導の先生・校長教頭の管理職が総出になる案件になるだろう」
緊急職員会議の後に当事者の生徒と保護者呼び出しの上で話し合いにもなるだろうし、と小泉は小さく唸った。
「騒ぎが大きくなれば隠し通すことも出来ないだろうから、緊急全校集会も行われて全学年の生徒は『金銭の管理について』の啓蒙めいた長い話を聞かされる事になるだろう」
これは新任の小泉一人の判断では動けない案件であろう事は俺にも理解できた。
カツアゲが行われたのは夏休み前の7月だ。
そしてそれが発覚したのが今現在の9月。
[どうして2ヶ月もの間、重大な案件が放置されていたのか]という理由について小泉も責任を追求される可能性がある?
いやいや……
そもそも悪いのは金を盗んでる3年女子だろ?
スラム街じゃあるまいし、治安悪すぎじゃねーか。
それを放置してた3年の教員サイドにも問題あるだろうがよ。
もしそういう流れになったとして、なんで被害者側のこっちが責められなきゃいけねぇんだ?
だけど、この“事なかれ主義”が蔓延してるこの学校の教師連中の事だ。
新任の小泉に責任をおっ被せて素知らぬ顔をする可能性は充分にある。
現に、担任の加賀がそうだもんな。
だから小泉にだけ負担がのし掛かるようなやり方はしたくなかった。
少し考えてから俺は言った。
「ちょっと俺がまた探り入れて来っからよ。それまでちょっと待っててよセンセェ」
小泉ばっかり責められる羽目になんのも可哀想だしな。




