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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㉗貫通、捨てる行為と剥がす行為

ちょっとなに言ってるかわからない。

「……先輩はスマホ、持ってるでしょう?」


うん、とマコトは小さく答える。


「……私はスマホも携帯もないけど、叔母さんが持ってるのを見た。機種変したスマホ。新しいスマホってね、画面に薄いフィルムみたいなのが貼られてるでしょう。先輩はあれ付けたままにしてる?」


携帯ショップで受け取ったばかりの新品のスマホには確かに薄いビニールのようなシートが貼り付けられている。


液晶用の画面保護シートとは異なり厚手のラップのような材質のそれはご丁寧にも“ご使用の前に剥がしてください”と注意書きも併記されている場合もある。


いや、アレ速攻で剥がすよね、とマコトは怪訝そうな顔をする。


……そうなんだけどね、と撫子は表情を変えずに続ける。


「……私の叔母さん、ずっと剥がさず使ってるの。何ヶ月も」


画面に傷が付くのを防ぎたければ”保護フィルム“の類を貼ればいい。


しかし撫子の叔母は億劫なのか節約のつもりなのかは判らないが購入時のまま、あのビニールを貼り付けたままゴリ押しで使用を続けていた。


ビニールの端は捲れ、捲れた部分には埃や汚れが付着して却って小汚さを加速させていた。


「……私、それを見て人間も同じだと思った」


撫子は淡々と続けた。


「……何かを始める時には捨てなきゃいけない部分がある。必ず。それをいつまでも惜しんで捨てずにいると劣化して見苦しいしやりにくい」


マコトは独自のロジックを急展開する撫子に戸惑ったが平静を装った。


「すぐに捨てたほうがいい」


撫子はストレートに結論を導き出し、豪速球でマコトに投げてきた。


「それが処女を捨てるって事だって言うの?そのためにセックスしたの?」


マコトは全く理解出来ない様子で聞き返した。


そう、と撫子は頷いた。


「……人間はガジェットでも品物でもないんじゃない?」


マコトは精一杯の抵抗で返事を捻り出す。


多分同じ、と撫子は呟いた。


「……おじいちゃんが直腸検査を受けたんだけど、多分同じ。内視鏡とかいうカメラ入れたって聞いたけど。そう変わらないんじゃないの」


ええ、とマコトは絶句した。検査や医療行為と変わらないってこと?と聞き返すのが精一杯だった。


内科の診察を受ける時には服を捲って胸を出す。


聴診器が当てられる。


ひんやりとして擽ったいが我慢する。


喉を診られる時には金属製の薄い棒状の器具が口内に入ってくる。


注射の時は少しチクリとするが一瞬なのでどうと言う事はない。


ーー臓器に異物が入って来るだけの行為。


「……そう。同じでしょう。必要があるからそうする。それでおしまい」


マコトには撫子の言っている事は何もかも解らなかった。


だが他者には理解されないだけで一連のロジックは彼女本人の中では確固とした筋が通っていた。


「じゃあ、もう用は済んだからセックスしなくてもいいし必要ないってこと?」


「……そう、無くていい。あっても構わないけど怒られたから」


だからおしまい、と撫子は淡々と続ける。


それは概史も了承しているんだろうか、と遠くではしゃぐ概史と少年を見ながらマコトは思った。


なんだか気の毒じゃないか概史が、とも思えた。


「ねえキミなんかおかしくない?そんなもんなの?彼氏彼女って?」


マコトは撫子の左手を見た。概史と揃いの銀色の指輪が嵌められた細い指。


「……わからない。他の人たちがどうしてるかとか」


多分これでいい、と撫子はまたシャボン玉を吹き始める。


剥がさずに使ってる奴、たまに見るよな

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