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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㉑人は誰でも他人の痛みには無関心

難しいよな、こういうのって。

「……嘘だね。そんなのは嘘だ。『悩みがあったら何でも相談して』とかさ、そういうの全部嘘なんだよ。向こうにとってはさ」



「何で嘘って言い切れるンだよ?」


「……一人で悩んで苦しくて苦しくて苦しくて、でも誰にも言えなくて、本当に頭がおかしくなりそうだった。僕の話を聞いて欲しかった。馬鹿馬鹿しい、こんな事誰にも言えないって思ってずっと一人で悩んでた。でも本当の本当に限界だった。だから恥を忍んで思い切って向こうに相談しようと思った。この苦しさから解放されるなら…。何もしなくていい、ただ話を聞いてくれるだけでよかった。嘘じゃない、僕は本当にそれ以外何も要らなかったんだ……」


マコトが嗚咽を押し殺している気配を少年は感じた。


「……でも違った……そうじゃなかったんだ……向こうにとっては……相談しようって思って話し始めた話題は出かかりを潰されていつの間にか向こうの話にすり替わってた……隙あらば自分語りはいつもの事だったのに……でも何もこんな時までって思ってすごくショックだった……僕は価値のない存在だったんだよ……」


マコトの渾身の勇気は超必殺技の最初のモーションを通常技で潰された2D格闘ゲームの対戦試合のように無様さだけを残して雲霧散消してしまっていた。


「……そう、隙あらば自分語りの常套手段。自分が自分が自分がっていつも向こうの話題にすり替わってる……自分。自分。自分。自分。それでもいいんだ……別に構わないんだ。いつもの事だから……別にそれでも良かったんだ……それでも楽しかったから……」


マコトは小さく呟く。


「……それでも……あの時だけは……僕の話をちゃんと聞いて欲しかった……」


俺が聞いてるだろうがよ、と言いかけた言葉を少年は飲み込んだ。


少年はただ黙って言葉を探す。


「……ガックンの学校ってさ、生活ノートってある?うちの学校私立だからさ、学校独自のやつ使ってるんだよね」


ああ、と少年は小さく頷く。


 「……うちの学校の生活ノートってちょっとページが追加されててさ、見開き2ページで一週間、その次の見開きに週間レポートみたいなのが別にあるんだよ。よその学校のはよく知んないけど。そこに“この一週間で頑張ったこと。来週頑張りたいこと。友達と取り組んだこと”みたいなの書く形式になってるの。めんどいんだけどさ」


「……そこの欄にさ、自分で書いたレポートっぽいのに“友達からひとこと”みたいな余計なのがあるんだよ。でもそういう形式だから書かなきゃでしょ?」


「……向こうはさ、『ゴメンちょっとこれ書いて!』とか言って僕に投げてくるんだよ。本文ごと。それはいいんだ、いつも書いてるから。……でも僕が頼んだ時は書いてくれないんだよ殆ど『難しくてわかんない』って言ってさ。滅多に頼まないのにさ……」


「…… 毎週ある英語の小作文の提出プリントもいつもそうなんだ。日記を英語で書くみたいな課題なんだけどさ。『これ頑張って書いたからちょっと見てよ!』って無邪気に悪びれずに僕に持って来る。そうだねよく出来てるよ。頑張ったね。立派だよ。そう言いながら僕は“友達や家族に読んでもらってお互い感想を言い合いましょう“って欄にコメントを書き込むんだ。それが毎回」


マコトは一呼吸置いてこう呟いた。


「……でも僕のは一回も見てくれたことなかった」


 マコトの哀れとも思える感情の起伏が隣の少年にも伝わって来た。

いつもの人工的な葡萄の匂いと汗の匂いがそれらをさらに引き立たせていた。


[グローバル化社会に向けコミニケーション能力に長けた人材を育成します]という学校の教育理念は完全に裏目に出てしまっていたのであろう。


マコトは学校内での居場所すらとうの昔に自分自身で見失っていた。


「……でももういい。やっと理解した。僕は一人でいいんだ」


少年はただマコトの言葉だけに耳を傾けていた。


「……誰かに解って貰おうって思った僕の方が間違ってたんだ。誰にも僕は解らないんだから」


生ぬるい風が二人の間を通過する。


「……僕は何もない…」


顔を上げたマコトが呟く。


「……僕は一人ぼっちだ……」


黙っていた少年が口を開いた。






「てかさ、お前も同じことしてンじゃね?」 

自分だってそうだろう?

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