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ep5. 『死と処女(おとめ)』 消えゆく生命

病院って独特の匂いがするよな。

階段を上がって四階に着くと俺は廊下を見回した。


目の前の病室には『401号室』と書かれたプレートが付けられている。


少し離れた位置にある部屋の前の椅子に誰かが座っているのが見えた。


おそらく、あの辺りが403号室だろう。


「なあ、ちょっと待てよ」


俺は小泉に声を掛ける。


「副担任であるセンセェが行くのは分かる。けど、夢野と全然喋った事のねぇ俺が行ったら不審がられないか?」


飛び降りってことは背後にイジメ的な案件があるのは明白だ。


校内でも浮いた立ち位置に居る俺が下手に顔を出したりして、夢野の家族にあらぬ疑いを掛けられるのも微妙な気がした。


「とりあえずセンセェだけ行ってさ、状況を聞いて来るってのはどうだ?」


それもそうだな、と小泉は頷いた。


「暫くその辺で大人しくして待ってろ」


小泉は403号室の方に向かって歩いて行った。


さて、どうしようか。


俺はグルリと周囲を見渡した。


院内の案内板のような掲示物が目に留まる。


ナースステーションの向かいに待合室のようなスペースがあるようだった。


ここで座って待ってるか。


俺はナースステーションの方に向かって歩くことにした。


廊下で小学生男子とすれ違う。


すれ違いざまに小学生男子は俺を凝視し、一旦すれ違った後にくるりと方向を変えると言葉を発した。


「……あの!」


「え?」


俺は振り返った。


「あの……違ってたらすいません。もしかしてお姉ちゃんの学校の人ですか…?」


小学生男子はおずおずと俺に訊ねた。


夢野には弟が居るってさっき聞いたっけ。


「もしかして……夢野の弟?」


小学生男子はコクンと頷いた。


「………」


俺は一瞬戸惑った。


何を話すべきだろうか。


そもそも、夢野とは同じクラスというだけで一回も喋った事も無いし絡みも全く無いんだ。


「えっと……」


小学生男子は俺をじっと見ている。


待て待て待て。


俺は夢野をイジメてなんていないぞ?


「俺はね、お姉ちゃんと同じクラスで……保健委員なんだ」


俺は咄嗟に意味不明な事を口走ってしまう。


いや確かにジャンケンで負けて保健委員になってるけども。


「保健委員はクラスで怪我や病気の人をサポートしたり、お見舞いに来たりする係なんだけど」


キミのお姉ちゃんが大怪我をしたって聞いて、心配になって先生に頼んで連れてきてもらったんだ、と俺は出鱈目を言った。


いや、意味わかんねぇだろ。


飛び降りて死にかけてる奴のとこにお見舞いって完全に嫌がらせムーブじゃねぇか。


「そうだったんですか」


夢野の弟はホッとした様子で俺の顔を見た。


「お姉ちゃん、学校でも友達が居ないっていつも言ってて…でも、ちゃんとこうして心配して来てくれる人もいたんですね」


良かった、と言いながら夢野の弟は目に浮かんだ涙を拭った。


「さっき同じクラスの水森さんと会ったけど?友達だから心配して来てくれたんじゃないのか?」


「……そうですよね」


夢野の弟……夢野レンは少し目を伏せ、小さく呟いた。


「僕もよくわかんないんです。お姉ちゃんの言ってる事が」


俺は少し戸惑った。


この弟は何かを知ってるのだろうか。


「キミのお姉ちゃん、どうして大怪我をしたの?学校で聞いてビックリしたんだよ?」


怪我の具合はどうなんだろうか?と俺は白々しく弟に質問した。


弟は再び目に涙を浮かべて小さく首を振った。









「お姉ちゃんは……このまま助からないかもしれません」

助からない…?

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