ep0. 「真夏の夜の爪」 ⑲そのマグナムで撃ち抜いて
拗らせたら致命傷。
「……ねえ、ちょっと出てこれない?」
珍しくマコトから少年に電話があったのは午後8時ごろだった。
いつもの秘密基地より少し下った位置にある河川敷にマコトはいた。
野良猫たちがガサゴソと音を立てて打ち捨ててあるゴミ袋に顔を突っ込んでいる。
少年はよう、といつものように挨拶する。
「珍しいな、お前が電話して来ンの」
しゃがみこんでいるマコトの横に同じようにしゃがむ。
「……まあね、ちょっと」
マコトが概史を避けているのは少年もそれとなく感じていた。
「……まあ飲みなって」
マコトが少年にコーラのペットボトルを投げて寄越す。
おう、と少年はそれを受け取る。沈黙と川の水が流れる音がする。
マコトは何も言わず俯いている。少年は暫く黙ってペットボトルのコーラを飲んで川の流れを見つめている。
ただマコトが言おうとしている何かを受け止めようとする姿勢を黙って貫いていた。
少年が何も促して来ないので若干居心地の悪さを感じたマコトの方から口火を切る。
「…ねえ、ちょっとこれ見てよ」
カチャリという音を響かせて重みのある銀色の金属の塊がマコトの手に出現した。
「え!?何それ何それ!?えっ!!すげぇ!なにこれコルトパイソン?!」
リボルバー式の拳銃がマコトの手に握られ、その存在感を放っていた。
「…357マグナムの4インチのガスガンだよ」
マコトは意味ありげに口角を上げる。
「ええ!?マジか!?カッケーな!?どうしたンだよこれ!?」
少年が興奮気味に食いつく。
「……試しに撃ってみる?」
マコトが少年に銃を手渡す。
「マジ?いいのかよ!?」
予想より重みのある銀色の拳銃。
「……違法改造してある。近距離だとガラス瓶を割る程度の威力はあるかもね」
やっべ、火力エグいな、と少年が感嘆の声を上げる。
「……24発撃てるよ、やってみなよ」
少年が引き金を引くと同時に小さな白い弾が地面を跳ねる。
「おお!?」
続けて二発、三発と白い弾が夜の河川敷の空間に消えていく。
スゲェな、と言いながら少年はマコトに銃を手渡す。
……もういいの?とマコトは意外そうに呟く。
ああ、サンキュな、といいながら少年は元いた場所にしゃがみ込む。
……予備の弾、まだあるよ、と言うマコトに少年はこう返す。
「でもよ、これ違法改造だろ?なんかヤバくね?」
「……ふふ、ガックンてさ、見た目より真面目なとこあるよね?」
マコトが冷笑するように呟いた。
そうかもなぁ、と少年はコーラを飲みながら返す。
また暫く沈黙が続いた後、今度は少年が口を開く。
「でさ、俺に見せたかったのってこれなンかよ?」
マコトは俯き黙っている。
少年はマコトの姿を見つめた。
マコトは話し始めるきっかけを探していたかのように口を開いた。
「……あのさ、ガックンて好きな人いる?」
唐突だな。




